ヒューマンアカデミー こども教育総合研究所

答えのない時代にそなえよう!家庭ではじめる北欧流の“対話”

2020/04/09

子育てをしていると、知らず知らずのうちに「親はこうあるべき」「子どもをこう育てねば」という呪縛にとらわれてしまいませんか?

でも、親だってそれぞれ個性ある人間。子どもだって、それぞれ個性を持つ人間です。たまには「親」の鎧をはずして、ありのままの自分で、ありのままの子どもと対話してみませんか。「こうあるべき」から離れてみたら、ふっと心が軽くなるかもしれません。


対話を通して自分と他者への理解を深める、北欧の教育

今回から数回にわたってとりあげるスウェーデン、デンマーク、フィンランドといった北欧の国々では、対話を通して小さい頃から「自分がどうありたいか」を追求し、価値観の違う他者と協力して物事にとりくむ力を育んでいます。

そのスタート地点は、まず、ありのままの自分を深く知ること。自分のありたい姿や、自分が力を発揮できる環境を知ることです。自分のよりどころとなる軸を持っていれば、急速なグローバル化や技術革新、未曾有の災害が続く時代も、たくましく軽やかに生きていけるかもしれません。今回は、そんな北欧の教育の一端と、家庭でできる対話のアイデアをご紹介したいと思います。

※「北欧」の教育と一言で言っても、歴史的文脈や具体的な制度・実践は国によって大きく異なります。ここでは共通して大事にされている価値をご紹介します。


1.答えのない時代のよりどころ!自分自身の「羅針盤」を見つける

大人になってから、就職活動の面接等で「あなたは何をやってきたのか?」「あなたは何が好きか、それはなぜか?」と問われ、戸惑ったことはありませんか?思えば私たちは、自分の好きなものや自分が選択してきたことについて、大人になるまで深く考える機会があまりないのかもしれません。

北欧諸国では、子どもたちは小さい頃から、「あなたはどうしたい?」「あなたはどう思う?」と繰り返し問いかけられて育ちます。それは例えば、朝着る服を子ども自身が選ぶような、小さなことから始まります。最初は些細なことでも、「自分はこっちがいい」という選択を重ねていくうちに、自分の好きなことや価値観、自分がどうありたいか、といったことが輪郭を帯びてくるのだそうです。

絶対的な正解がない世界では、選ぶ道を迷った時によりどころになるのは、「自分がどうしたいか?」「自分にとっての答えは何か?」という自分軸。小さな頃から自分で選択する経験を積み重ねていくことで、自分への理解が深まり、自分だけの「羅針盤」が見えてくるのです。

<家庭でもできる!対話アイデア>

まず選択肢を二つあげて、子どもが「自分で選ぶ」場面を意識的に作ってみることから始めてみてはどうでしょうか。着替えの時に「あなたはこの服とあの服、どちらを着たい?」と聞いたり、週末の予定を決める際に「あなたはこれとこれ、どちらをしたい?」と聞いたり、そんな些細なことからで十分です。

慣れてきたら、選択肢を出さずに「あなたはどうしたい?」と聞き、「なぜそれを選んだの?」と尋ねてみてください。「なぜ?」という問いかけは、子どもが一歩深く考えを巡らせるきっかけになります。言葉に出して説明する中で、意識していなかった自分の気持ちや価値観に気づくことができるはずです。


2.自分が力を発揮できる環境を理解し、人に伝える力を身につける

もう一つ大事にされているのが、一人ひとりが力を発揮できる学びの環境を整えることです。その根底にあるのは、「心地よい環境でないと、学びなんて生まれない」という考え方。一人ひとりの感覚は違うということを前提に、それぞれが心地よい環境を作ることに力をかけています。

先生や授業内容にもよりますが、例えば聴覚過敏な生徒がいればヘッドホンをつけて学習できるようにしたり、落ち着きのない子がいれば教室にその子が心地よいスペースを作ったり。そもそも学校の授業に興味が持てない子については、生徒の興味関心を先生が共に考え、学校の外で学ぶ機会を作っていくケースもあります。

もちろん、どんなことでも許されるわけではなく、基本的には子どもが「なぜそうしたいか」を先生に伝えて交渉し、折り合いをつけていきます。このような機会を通して、自分が創造的に力を発揮できる環境を知り、人に伝えるすべを身につけていくのです。

<家庭でもできる!対話アイデア>

家の中で(もしくは外で)、心地よく学べる環境を子どもと一緒に探してみましょう。例えば心地よく宿題ができそうな環境を、まず子ども自身に考えてもらいます。次に、実際に取り組んでみて、どうだったか振り返ってみましょう。もしかしたら、ふかふかのソファや陽のあたるベランダの方がはかどる、ということもあるかもしれません。宿題の内容によって、力が発揮できる環境は違うかもしれません。机に姿勢良く座って学ぶことだけが、誰にとっても、どんな場合でも力の発揮できる環境とは限りません。

もちろん、姿勢や目が悪くなるような状況では折り合いをつけていく必要がありますが、「自分はどんな環境だと力を発揮できるか」を知っていることは、社会に出てからも役立ちます。おうちの方も、「自分はどんな環境だと家事や仕事がはかどるか?」を探してみると面白いかもしれません。


3.モヤモヤ・イライラは、新しい物事の見方に出会うチャンス

最後にご紹介したいのが、自分とは違う他者の考えを知り、共に未来を創っていく力の育み方です。

多様な考えに触れるため、北欧の教育現場ではしばしば「正解のない問い」を扱います。例えばスウェーデンの小学校社会科では、「刑罰を重くすれば、犯罪は減ると思うか?」「環境問題をどう解決するか?」といった問いを子どもに投げかけます。このような問いには、絶対的な正解は存在しません。その時の状況や他の物事への影響、優先順位をどう考えるかによって、判断は変わります。対話を通してそのことに気づき、何か物事が起きた時、様々な観点から分析できる力を養っているのです。

自分が正しいと思うことと、他者が正しいと思うことは違うかもしれません。違う考えに触れれば、モヤモヤやイライラを感じることもあるでしょう。でも、そんな時は、その感情を否定的にとらえるのではなく、「なぜ自分はそう思ったのか?」と自分に問い、振り返ることを大事にしています。そうすることで、自分自身の価値観に気づき、モヤモヤやイライラも「裏の見方に気づくチャンス」に変えることができるのです。

<家庭でもできる!対話アイデア>

子どもと接していると、無意識のうちに「親」としてふさわしい発言のフィルターがかかります。例えば子どもに「ゲームは何時間もしちゃダメ!」というけれど、親のフィルターを外したら「自分も一日中ゲームしたい」ということはあるでしょう。

親もそれぞれ好きなことや癖のある、一人の人間。たまには「親」の鎧をはずして、ありのままの「自分」で、ありのままの子どもと向き合って対話してみませんか?「『親』としては怒ってしまったけど、『自分』はこう思う」と率直に話し、同じ目線で対話してみれば、お互いに新しい発見があるかもしれません。

ある物事を一つの見方で「良い・悪い」とジャッジし、「教える側」「教えられる側」の立場が固定化してしまったら、お互いに視野は広がりません。親も子どもも対等な立場に立ってありのままを面白がれば、相手は自分と違う一人の人間だとわかります。同時に、物事に多様な見方・あり方があることを理解する最初の一歩になるでしょう。


最後に

北欧における大人の役割は、子どものお手本として「教える」ことではありません。子どもと対等な立場で問いかけ、対話することで、子どもが自分や他者の価値観を知るきっかけとなる存在です。親も完璧でなくていい。ありのままの自分で喜怒哀楽を出しながら、子どもと対話していけばいい。そんなふうに思えたら、肩の力が抜け、子育てが少し気楽に楽しめそうな気がしませんか?次回からは、北欧各国でどんな実践がされているのか、具体事例をご紹介していきます!


轡田いずみ

本記事の筆者:轡田いずみ(くつわだ・いずみ

(株)ノルディック・インスピレーション代表。
https://nordic-inspirations.com/

北欧の教育・学び リラ・トゥーレン主宰。
1984年生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒(在学中にスウェーデンへの交換留学を経験)。リコー、ベネッセコーポレーションを経て、2015年に独立。主に北欧企業/ブランドの日本展開を支援する。2020年4月、訳書「ぼくが小さなプライド・パレード 北欧スウェーデンのLGBT+」が出版予定。

<北欧の教育・学び リラ・トゥーレン>
リラ・トゥーレンは、一人ひとりの創造性と多様性をひきだして活かす北欧の教育をヒントに、これからの学びのあり方を対話しあう共創型情報プラットフォームです。北欧留学経験者/予定者、北欧在住者、学生、教育関連企業、出版社、テーマに関心をもつ人がコラボし、参加者と運営者の間を行き来しつつ新しい企画を生み出しています。本記事は、当プラットフォームを介して出会ったメンバー複数名で企画・執筆しています。

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