高橋智隆先生が実践してきた、 ロボット開発でいちばん大切なこと|こども教育総合研究所
ヒューマンアカデミー こども教育総合研究所

「欲しいものは自分で作る」。幼い頃から自分の好きなロボットを作り続けてきた日本を代表するロボットクリエイター、高橋智隆先生。好きなことを仕事にしただけでなく、「ヒューマンアカデミーロボット教室」のアドバイザーとして、次世代の育成にも力を注いでいます。未来のクリエイターたちと、そのサポートを行う親世代に役立つお話を伺いました。


高橋智隆(たかはし・ともたか)先生

株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、福山大学/大阪電気通信大学情報学科客員教授等を歴任。ヒューマンアカデミー「ロボット教室」アドバイザー。

2003年京都大学工学部物理工学科卒業。卒業と同時にロボ・ガレージ創業。
ロボットの世界大会「ロボカップ」で史上初の5年連続優勝を達成。
ロボットクリエイターとして、ロボットの研究、設計、デザイン、製作を手がけている。
代表作に、乾電池CM「エボルタ」、組み立てロボットキット「週刊 ロビ」、ロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」 など。


自分の好きなことを仕事にしたい

先生は、いつからロボットに興味を持ち始めたのですか?
ロボットを好きになったきっかけは、親が持っていた『鉄腕アトム』のコミックスです。博士がロボットを開発する場面を見て、「ロボットって人の手で作るんだ、自分も作ってみたい」とあこがれたんです。

初めてロボットを作ったのは4歳くらいのときでした。石けん箱をテープで貼り合わせて、顔を描いただけのロボットでしたが、まぎれもなく自分の手で生み出したオリジナルのロボットでしたね。

子どもの頃は、おもちゃ売り場に並んでいる、よくある男の子が好きそうなものは、ねだっても買ってもらえなかったんです。教育的な方針や、単純に親の趣味ではなかったということがあったようなのですが、結果的にそれがよかった。買ってもらえないなら、自分で作るしかありません。ものづくりが趣味だった祖父の工作室に入りびたり、ブロックや段ボールで工夫して作るようになったんです。「自分が欲しいものは自分で作る」という姿勢は、ロボットクリエイターとなったいまも変わりありません。

ロボットクリエイターになろうと思ったきっかけを教えてください。
中学以降は、釣りや自動車などに熱中していて、そこから多くのことを学びました。大学も文系の学部に進学しましたが、バブル崩壊による就職氷河期と重なり、「やはり自分の好きなことを仕事にして生きていきたい」と考えるようになりました。改めてロボット作りの楽しさを思い出したんですね。そこでロボット作りに役立つ学問を勉強しようと、京都大学工学部に入り直しました。

在学中に独学で二足歩行のロボットを開発し、京大の学内入居ベンチャー第1号としてロボット開発会社「ロボ・ガレージ」を起業しました。在学中から特許出願などを行い、おもちゃの商品化も行っていましたが、基本的には全て独学でしたね。ラジコンや他の工学を参考にして研究開発に勤しんでいました。

独学で結果を出すのは大変だったのではないでしょうか。
私は新しいモノを生み出すときは、一人の人間が、一人の価値観で作ったほうがいいと思っているんです。そうでないとイノベーションは起こせない。いかに“ブレずに突き進めるか”が大事だと思っています。

京大3回生のとき、青色発光ダイオードを発明した中村修二先生(2014年/ノーベル物理学賞)の講演を聞く機会がありました。今でも尊敬する方の一人なのですが、中村先生は自ら実験装置を作り、実験結果を検証して、さらに改良を加えるという「サイクル」を回せたことがよかったと仰っていました。すべての工程において試行錯誤を繰り返すことで、ノウハウがどんどん蓄積されたという姿勢に、大変感銘を受けました。そこからは論文だけから吸収するのをやめて、自分でも手を動かし、試行錯誤を繰り返すようになりましたね。

みんながロボットを持ち歩く社会を目指す

これまでに先生が作られてきたロボットについて教えてください。
単三型乾電池2本で動く「エボルタ」、国際宇宙ステーションで宇宙飛行士の若田光一さんとコミュニケーションを交わした「キロボ」、雑誌で販売したパーツを読者が組み立てることで完成する「ロビ」など、これまでにたくさんのロボットを作ってきました。そして最新のロボットは、スマートフォンの機能を備えたコミュニケーションロボット「ロボホン」です。

ロボット教室全国大会の講演にて「ロボホン」を紹介する高橋先生

ロボホンのアイデアは、どのように思いついたのですか?
2013年頃、コミュニケーションロボットをみんなが1台ずつ持つようになるには、どうすればいいかを考えていました。そこでスマホと融合するイメージが浮かんだのです。ロボット専用の高性能なセンサーやカメラ、バッテリー、モーターなどを、それぞれ個別に作るのはとてもお金がかかり非効率なんですね。スマホの技術や部品を利用すれば、大量に安くロボットを作ることが可能になります。誰もが持ち歩きやすいよう、手のひらに収まるくらいのサイズのロボットを作れば、みんなが持ち歩くようになるのではと考えました。

ロボホンは、どうして人間のような姿をしているのですか?
たとえば、マイクと画面しかないただの機械に、人は積極的に話しかけようと思いません。ロボホンは手足を動かしたり首をかしげたりして、まるで人間のように気持ちを伝えることができます。目や口をさまざまな色に変化させ、感情を表すことも可能です。ロボホンが人間のような姿をしていることで、ユーザーは親しみを感じて、コミュニケーションをとろうと考えるのです。

今後、ロボホンはどのように進化していきますか?
ガラケーからスマホへの進化と、スマホからロボホンへの進化は、後者の方がユーザーにとってのギャップが大きかった。みんながロボットを持ち歩く社会とするには、ロボホンはちょっと先に行きすぎていたかなと反省しています。スマホとロボホンの間に、ユーザーのギャップを埋められるステップがあればよかったのではと考え、いまそうしたものを開発しています。

性能、耐久性、コストパフォーマンス、どの点から見てもロボホンは世界一のコミュニケーションロボットだと自負しています。けれど、使ってくれるユーザーがいないと話にならない。大事なのは高性能かどうかではなく、広く普及させること。あらゆる製品に言えることですが、多くの人が使うから進化していくという事実があるんです。

とは言え、スマホに感情移入させるというロボホンのコンセプトは正しいと思っています。見た目や使い勝手、価格などを見直しながら、みんながロボットを持ち歩くという理想の未来に、ユーザーを誘導するための布石を敷いていこうと考えています。

今を生きる子どもたちと親世代へ「自分が“良い”と思うことを大切に」

先生のロボット作りの原動力は何ですか?
知的好奇心を持ち続けていることでしょうね。産業としてロボットを普及させるには、自分の興味・関心だけでは限界もありますが、それでもやはり「こんなロボットが欲しい」という自分の純粋な気持ちが、ロボットクリエイターとしての原動力となっています。

僕がアドバイザーを務める「ヒューマンアカデミーロボット教室」の新しい作例を考えるときも、徹夜であれこれ悩みながら作業することがあります。それも、好きだからこそやれるんですね。苦労してできあがったら達成感も得られるし、それを教室の子どもたちがワクワクしながら作ってくれる姿を想像するだけで楽しくなるんです。

「ロボット教室」に通うと、子どもたちはどんな力を身につけられますか?
多くの子どもたちにとって、ロボットは「理数科目への興味の入口」だと思います。ロボット教室をきっかけに、子どもたちの知的好奇心を引き出し、さまざまな能力を伸ばせるようにしたいと思っています。発想力、論理的思考力、空間認識力、集中力など、教室で養った力をもとにロボットクリエイターを目指すのもいいし、またロボット以外の道にも羽ばたいていってもらえたらうれしいですね。

「読み・書き・そろばん」といったいわゆる勉強を教えてくれる場があるように、モノとインターネットがつながるIoT時代の基礎教育を担うのがロボット教室だと思っています。これからの時代を生きるために必要な、さまざまな能力や個性の底上げをしていきたいし、そうした中から突出した才能を持つ子どもたちが現れることを期待しています。

ロボットクリエイターを目指す子どもたちにアドバイスをください。
いろいろな体験をすることが大事です。とは言え、無理に変わったことをする必要はありません。公園で友達と思い切り遊ぶとか、好きなことにのめり込むとか、小学生時代にしかできないことをやるべきではないでしょうか。実際に僕自身も、ロボット作りとは関係のなかった体験が、後から役に立つことがよくあります。

そして何より子どもたちに伝えたいのは、自分がいいと思うモノを信じて作り続けてほしいということ。自分が欲しいと思うモノは、同じ感性を持った人が喜んでくれて、結果的に世界中に広がっていくのだと感じています。

最後に、いま子育てをしている親世代に向けてメッセージをいただけますか?
勉強にしろ、習い事にしろ、親としては子どもの将来を考えて、早め早めにやらせようという思いがあるかもしれません。私も娘がいますので、よくわかります。ですが、それがかならずしもよいとは限りません。体力、理解力、集中力など、それぞれの子どもの成長にあわせたタイミングがあるのではないでしょうか。子どもが自ら興味を持ったときが、本当にのめり込むタイミング。子どもを見守るなかで、「ここぞ」という適切なタイミングがあったときには、ぜひ背中を押してあげてください。

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