アーカックス生みの親・石井啓範さんが実践する「カッコいいロボットづくりを仕事にする方法」|こども教育総合研究所
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「カッコいい!」

子育てをしていると、子どものこの言葉は、よく聞かれることでしょう。カッコいいものを作ろうとものづくりに励む我が子を見て「好きこそものの上手なれ」と微笑しく思う保護者の方も多いはず。しかし子どもの「カッコよさの追求」は、時に理屈を超えます。ロボットやプラモデル、あるいはレゴブロックでも、どんなに時間がかかってもいい、普段は役に立たなくてもいいから、とにかくカッコよくしたい。そこまでいくと、だんだん「ついていけない…」と感じる方もいるかもしれません。

では、例えばロボット教室に通う子どもがロボットに夢中になるあまり「受験や勉強より、カッコいいロボットを作っていたい!」といい出したらどうでしょう。そんな時には「勉強も大事だから!」と思わず止めたくなる気持ちもわかります。とはいえ、「探究」がキーワードとなる時代。子どもがせっかく打ち込めることを、親の考えで止めるのも悩ましいところです。

そこで今回は、大企業を辞めてまで「カッコいいロボット」づくりに打ち込むツバメインダストリCTO(最高技術責任者)の石井啓範さんに話を伺いました。石井さんは、何のためにカッコいいロボットを作るのでしょうか?


<PROFILE>

石井啓範(いしい・あきのり)さん

ツバメインダストリ株式会社CTO/石井ロボット設計代表。

1974年生まれ。早稲田大学では等身大ヒューマノイドロボット「WABIAN」の研究に従事。1999年日立建機に入社、双腕建機「アスタコ」などの研究開発に携わる。2018年からは「ガンダム GLOBAL CHALLENGE(GGC)」にテクニカルディレクターとして参加。2021年にはツバメインダストリ株式会社を設立、CTO(最高技術責任者)として、搭乗型ロボット「アーカックス」の研究開発に携わる。3児の父でもある。


建設機械からガンダム、そしてオリジナル搭乗型ロボットへ

2020年、横浜・山下ふ頭に現れた巨大なロボット「動くガンダム」。轟音や白煙とともに格納デッキから前に進み、かがんだり、天を仰いだりします。アニメ作品「機動戦士ガンダム」の40周年を記念したプロジェクトによって製作され、2024年3月まで公開されていた全長18メートルの「動くガンダム」は、国内外で大きな話題を呼びました。
この「ガンダム GLOBAL CHALLENGE(GGC)」プロジェクトには、さまざまな分野の研究者やエンジニア、クリエイターが集結。その中でテクニカルディレクターとして参画していたのが、石井啓範さんです。

「子どもの頃に出会ったガンプラ(ガンダムのプラモデル)でものづくりに目覚めて、ラジコンなんかにもハマりましたね。理系に進んでから、ものづくりに携わる仕事に就きたいなと思っていました。大学受験の際にどんな研究をするのか考えて、あらためて『ロボットをやってみよう』と」

そこで石井さんが進学したのは、ロボット研究で日本をリードする早稲田大学。全長180センチのヒューマノイドロボット「WABIAN」や、ロボットの歩行制御の研究に励みます。しかし、石井さんは自身のある感情に気づきました。

「人間と同じサイズのロボットは、題材としてあまり面白くないな…と(笑)。そこであらためて、自分は人間が乗ることができるぐらい大きなロボットを作りたいのだとわかったんです。将来的には搭乗型ロボットを作りたい、あるいは、宇宙飛行士になって宇宙に行きたいなと」

また、大学はあくまで学生が入れ替わりで、先端的な研究に取り組む場です。もっと実践的なものづくりを学びたかった石井さんは、就職先として、建設機械メーカーである日立建機を選びました。日立建機では研究部門に在籍し、2本の腕を持つ画期的な建設機械(建機)である「アスタコ」を生み出します。

「都市部で住宅を壊す解体用の建機の研究をしていたのですが、自分はロボット研究をしていたから、腕が1本より腕2本の方が解体しやすいのでは、と思って若手対象のコンペで提案しました。最初はやりすぎだといわれましたが」

結果として製品化したアスタコにより、ついに人間が乗り込める大型ロボット…のような機械を作った石井さん。そこに舞い込んできたのが、冒頭のGGCプロジェクトの話でした。石井さんは日立建機を辞めてGGCプロジェクトに参画。プロジェクトのまとめ役として、「動くガンダム」を見事実現させたのです

この動くガンダム、実際には来場客が入場できないにも関わらず、コックピット(操縦席)まで作り込まれていたのだそう。そこには「人が乗れるロボットを作りたい」という石井さんのこだわりが込められています。そして石井さんの搭乗型ロボットへの想いは、とどまることを知りません。

「SF(サイエンス・フィクション)の映画やアニメに登場するようなロボットがある未来社会を、何とかして実現したかった」という石井さんは、新たに会社を設立。そしてGGCプロジェクト参画から5年後の2023年、石井さんがCTOを務めるツバメインダストリが発表したのが、搭乗操作型ロボット「アーカックス」の試作機です。

「SusHi Tech Tokyo 2024」出展時の会場にて

アーカックスが画期的なのは、乗って動かせるだけでなく、条件さえそろえば「買える」こと。これまでこのようなロボットは、メーカーや研究機関の技術力を世に示すために存在するのが一般的でした。それを製品として扱うという挑戦に、石井さんとツバメインダストリの先見性を感じずにはいられません。

搭乗型ロボットを作る理由はシンプル

ところで、石井さんはなぜ人間の搭乗できるロボットづくりにこだわるのでしょうか。

「理由はよく聞かれるのですが…『だって、作りたいから』なんですよね。反対にいえば、搭乗型ではないロボットを作って何が楽しいのか、と(笑)。そもそも僕は、すでに世の中に存在しているものはあまり作りたくないんです。

例えば自動運転できる車は、素晴らしいプロダクトだと思うのですが、すでに車自体は存在しますよね。建機メーカーにいたときも、建機自体はたくさん種類があるし、それをブラッシュアップして次世代機を作ることには価値があります。でも、僕はまだ世にない、自分ならではの新しいものを作りたい」

搭乗型にこだわるのは?という突っ込んだ問いに対する石井さんの答えは、きわめて明快でした。

「搭乗型ロボットが、一番カッコいいと思っているからです。子どもの頃、ガンプラを見て『カッコよさ』を刷り込まれて育っているので、乗って動かすロボットとはすなわち、ガンダムのようにカッコいいものです。そこに、理屈は必要ない

石井さんが現在手がけているアーカックスにも、その思想が貫かれています。カッコよさはアーカックスの非常に重要な要素であり、石井さんは仲間内でもよく「何をもって“カッコいい”とするのか?」と議論になるのだとか。

一方、1機あたりの価格が4億円というアーカックスについて「カッコいいのはわかるけれど、何の役に立つの?何ができるの?」という冷静な反応もあるのも事実。確かにアーカックスは、長距離を楽に移動できるわけでもないし、重いものを持ち運べるわけでもありません。石井さんは「将来的には搭乗型ロボットが、世の役に立ってほしいとは考えている」と前置きしつつ、次のように述べます。

「アメリカの研究者ロバート・ゴダードは、フランスの小説家であるジュール・ヴェルヌが書いた『月世界旅行』に感銘を受けて、ロケットを打ち上げる実験を始めました。世界初の動力飛行機も、ライト兄弟の夢が発端ですよね。彼らは、ここまで宇宙産業や航空産業が発展することを想定していたわけではなく、純粋にチャレンジしたかったのだと思います。我々としても、まずは搭乗型ロボットの″カッコよさ“に価値があること、それに乗って動かすというエンターテインメントとしての体験に価値があることを、すべての入口にしたい。だから、かなり振り切って開発しているんです」

アーカックスはいわば、巨大なガンプラのようなものかもしれません。でも、何かの役に立つわけでもないガンプラに、夢中な大人はたくさんいます。石井さんのターゲットは「いつまでもカッコいいものが大好きな大人」なのです。

理想のロボットを作り続けるためにすべきこと

ロボット教室やプログラミング教室に子どもを通わせている保護者の方は、多くの場合、「将来の役に立てば」と思っているのではないでしょうか。実際に社会の役に立つ「実学」は、コスパやタイパが重視される現代において、最も重視されているものといえるでしょう。しかし、すべての人が社会貢献といった「役に立つ目的」のために何かを学ぶことに、石井さんは疑問を呈します。

「社会貢献や社会実装が入口となる学びは、すごく大切です。でも、100人中100人が同じ方向へ同じように進んでしまうのは多様性に欠けるし、真のブレイクスルーも生まれないのではと考えています。100人のうちひとりぐらいは『僕は自分の夢のためにこれを作る!』という人がいてもいいのでは

実はこれは、ビジネスにおいても重要な視点です。みんなが社会貢献や持続可能な社会といった目的のために事業を行えば、そこは競争の激しい市場であるレッドオーシャンとなります。価格競争が起こり、淘汰も進むでしょう。しかし、あえて別の方向に行けば、うまくすると一人勝ちできるかもしれない。石井さんはそう考えます。

「車で例えるなら、多くの人に受ける大衆車を作るような大メーカーを目指して会社を大きくしていくことよりも、富裕層向けにカッコいいスポーツカーを作って、小ぢんまりとでもビジネスを継続しければ、それで十分。ニッチでかまわない。それには、個人の価値やスキルの希少性がモノをいうと思っています。みんなと同じ競争をするより、オンリーワンの価値やスキルを見つけた方が、将来的に役に立つ。なので『○○が好き』という純粋な気持ちを大切にしたいですよね」

ちなみに、石井さん自身が人材としての希少性を保つために重視しているのが「スキルの掛け合わせ」。100万人のエンジニアの中で、技術力でトップに立つのはとても大変なことですが、それに「100人にひとりのスキル」を2、3個併せ持っていれば、100万人の中でオンリーワンの存在になれる――そんな計算です。

「私は建機の設計をしてきた人間ですが、設計力では自分レベルの人はいくらでもいます。そもそも私は自分の能力をあまり信じていなくて、何か課題にぶち当たっても『過去の先人たちがきっと取り組んでいるだろう』という仮説のもと、それについてかなり調べるタイプです。

そんな技術者でも、ガンダムやSFが好きで、アスタコや動くガンダムのようなプロジェクトをマネジメントしたスキルを持つ人は、確実に少なくなるはず。さらに、私はカッコいい車やバイクも好きなので、そのような『カッコいい機械』を常に作ろうとする感性も掛け合わせれば…といった具合に」

だからこそ、ロボットが大好きでも、ロボット以外にあえて目を向けることを石井さんはすすめます。反対にいえば、受験のため勉強する必要があったとしても、ロボットが好きならロボット教室は続けるべきだと。

「ロボットだけやっていると、ロボットのことしかわからない人間になってしまうし、そういう人は少なくない世界。でも、仮にロボコンを何年もやっていても、サイズがまったく異なるアーカックスは作れません。重量計算から違ってきて、設計論そのものが変わってきますからね。だから他のことにも興味を持つべきでしょう。

そもそも日本という国は、さまざまな技術を掛け合わせたり組み合わせたりできることに強みがあります。アーカックスやガンダム立像も、実質的な中身は産業機械ですが、日本の意匠技術を組み合わせています。私は、日本の勝ち筋は、そのインテグレーション力(組み合わせてまとめる力)にあると思っています」

尖ったロボットを生み出すのはコミュニケーション力

ここまでの石井さんの話を読んだ方は「複数のスキルを併せ持って一点突破できる、いわゆる“尖った人材”になればいいのか」と思われるかもしれません。ところが、石井さんはこうも語ります。「ロボットプロジェクトにおいてコミュニケーション力は、かなり重要」なのだと。

「私も若い頃は『ひとりでやってやるぜ!』と思っていたんですけれど、会社に入ってみたら、ものづくりはたくさんの人に関わっていただかないと、何もできないことに気づきました。コミュニケーションは、思っていた以上に大変です。国内9社の技術者が集まったGGCでも、論理的思考を持っていることがベースではあるものの、やはり、コミュ力は重要だなと感じます」

なお、石井さんは自身を「そんなに才能があるとは思っていない」と評します。石井さんの強みは、周りの優秀で個性的な人と謙虚にコミュニケ―ションを図りながら、プロジェクトをまとめる力にあります。

「ロボットの各要素についてある程度の知識は必要ですが、すべてに関して、別にそこまで詳しくある必要はないんです。ロボットはそれらの要素を集めた最終的なアウトプットなので」

実はロボットは、モーターやギアひとつからでも自分ひとりでも作ることが可能です。しかしアーカックスはすでにある高精度の部品を世の中から集め、組み合わせる手法を取っています。

だからといって、寄せ集めでこだわりのないロボットではありません。アーカックスが何よりこだわったのは「カッコよさ」。この搭乗型ロボットは、大人たちの「こうすればもっとカッコよくなる」「それはカッコ悪いよ」という真剣な議論の末に生まれた“想いの集合体”でもあるのです。

技術大国・日本は、実は全面液晶パネルの携帯電話を、1990年代にすでに製品化していました。しかし、それは市場では受け入れられず、販売的には鳴かず飛ばずに終わります。一方で、Appleの創業者スティーブ・ジョブズは、そのコンセプトに徹底的な使いやすさと圧倒的な美しさを加えたご存じiPhoneを、2007年に送り出しました。果たして、iPhoneは現在に至るまで、世界中でヒットを続けています。

ロボットやAIのような先端技術に関しては、とにかく何か一点を突き詰めればそれでいいと思われがち。しかし、ロボットは石井さんが言う通り、さまざまな要素を集めて編んだものです。製品として世に送り出すなら、何より人を引きつける魅力が不可欠といえます。

その点、各要素についてはできるだけ俯瞰的に見ながら、ロボットの「カッコよさ」についてはとことんまで突き詰める――そんな石井さんのアプローチは、これまで技術先行型だった日本のロボット開発を、大きく変えていく可能性を秘めています。

そして、石井さんが手掛けた動くガンダムやアーカックスを見て「カッコいい!」と歓声をあげた子どもたち――彼らこそが、次世代を担うロボット開発者の“ニュータイプ”として、日本発のカッコいいロボットを次々と生み出していくのかもしれません。

取材・執筆:スギウラトモキ

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