「最先端技術を統合して【未来を創る】」古田貴之氏に聞くロボット研究者の目指す世界|こども教育総合研究所
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子どもたちの大好きなロボット。それは、アニメや漫画の中だけに存在すると思っていませんか?
実は私たちの暮らす社会では、さまざまなカタチでロボットが活躍しています。それらを開発しているロボット研究者とは、いったいどんなお仕事なのでしょう。日本を代表するロボット研究者、古田貴之先生にお話を伺いました。

古田貴之氏のご紹介

古田貴之(ふるた・たかゆき)氏
工学博士。千葉工業大学「未来ロボット技術研究センター・fuRo」所長。

1968年生まれ。幼少期をインドで過ごす。(独)科学技術振興機構でロボット研究チームのリーダーを務めた後、2003年6月、fuRo設立とともに所長に就任。東日本大震災の後、福島第一原発に投入された国産ロボットの開発など、数多くの国家プロジェクトを手がける、日本を代表するロボット研究開発者。2014年2月より学校法人千葉工業大学 常任理事も務める。
新たなロボット技術・産業の創造を目指し、企業との連携を積極的に行い、新産業のシーズ育成やニーズ開拓に取り組む。

ロボット研究者って、どんなお仕事?

—ロボット研究者は、具体的にどのような仕事をしているのでしょうか?

多くの人が誤解しているようですが、私たちロボット研究者の仕事は、アニメに出てくるようなロボットを作ることではありません。ロボット研究者の仕事は、未来を創ることです。

—未来を創るとは、どういう意味ですか?

ロボットの定義は「知能機械」、つまりかしこい機械の総称です。二足歩行する人間型のロボットだけがロボットではない。たとえば掃除機ロボット。有名な掃除機ロボットは僕たちが作っています。その最新型は、センサーで部屋の間取りを瞬間的に認識して、カーペットや床の段差を乗り越えながら、効率的に掃除を行います。洗濯物やおもちゃなどがあっても自動認識するため、あらかじめ床を片付けておく必要もない。

この掃除機は、「センサー」で感じて、「人工知能」で考え、「メカ」を駆使して自分で動く、とてもかしこい機械です。こうしたさまざまな技術を統合してものづくりを行うのがロボット工学です。自動運転の乗り物、駅に設置されているホームドア、住んでいる人の健康を見守る住宅など、ロボット研究者はあらゆる最先端技術にかかわるものづくりで、世の中を進化させています。

わかりやすく言えば、「あんなこといいな、できたらいいな」をリアルに行うのが我々の仕事です。つまり未来にあるものを作るのが私たちの仕事であり、さらに言うなら未来そのものを作るのがロボット研究者の仕事なのです。

—ロボット研究者は、ある分野に特化した専門家ではないのですね。

大昔に、物理学、化学、数学といった理学の基礎となる学問が成立しました。産業革命の時代に、こうした学問を応用してものづくりを行う工学が生まれ、それはやがて機械工学、電気工学、情報工学といった分野に枝分かれしていきました。これらすべてを統合したものがロボット工学です。ロボット工学は、理系分野の頂点にある学問と言っていいでしょう。

—現在、先生が携わっているお仕事について教えてください。

千葉工業大学に「未来ロボット技術研究センター・fuRo(Future Robotics Technology Center)」を構え、さまざまなロボットの研究開発を行っています。「fuRo」には3つの柱があります。1つめは、未来のロボットの研究開発をすること。2つめは、企業と大学が共同で研究を進めてロボットの新産業を立ち上げること。そして3つめが、ロボットのプロダクトデザインを追求すること。機能とデザインを一体化して無駄を省くと同時に、ロボットの性能の向上を目指しています。

現在、国が主導する大型プロジェクトから家電メーカーとのコラボレーションまで、さまざまなカタチでロボットの研究開発が進行中です。残念ながらプロジェクトの詳細を明かすわけにはいかないので、これまでに作ったロボットをいくつか紹介しましょう。

まずは「Hallucigenia 01」。8つの脚(車輪)を32個のモーターで制御する、次世代の多目的乗用車です。その場で回転したり、全方位に横移動できたりします。また、車体を水平に保ったまま坂道を上り、段差を乗り越えて走行するなど、高度な機動性能を実現しました。災害時のレスキューカーとして、また福祉や物流の現場での活用が見込まれています。

「CanguRo」は、普段は持ち主に寄り添うパートナーロボット。移動するときにはカタチを変え、人と機械が一体となる乗り物になります。遠くにいてもスマートフォンやタブレットで呼び出せば、指定の場所まで迎えに来てくれるかわいいやつです。

東日本大震災で被災した、福島第一原子力発電所内の探査を行うために開発されたロボットが「櫻壱號(サクライチゴウ)」です。探査活動が困難とされる、地下施設内等での情報収集を目的に設計されています。

まだまだたくさんあるので、くわしくは「fuRo」のウェブサイトをご覧ください。

子どもの頃は学校になじめなかった

—先生は、どうしてロボット研究者になろうと思ったのですか?

幼い頃『鉄腕アトム』が大好きでした。アトムを作った天馬博士にあこがれ、いつか自分もアトムを作ってみたいと思うようになりました。

ところが中学生のとき、突然歩くことができなくなり、車椅子の生活になってしまったのです。重い病気と診断され、余命は8年と宣告されました。不自由だった闘病生活の中で、誰にも頼らずに自由に行動できる車椅子があったらいいなと考えるようになりました。

そうだ、車椅子ロボットを作ろう。誰もが乗ってみたくなるような、かっこよくて役立つ車椅子ロボットを自分の手で開発しよう。しかも、いつかではない。自分には時間がないのだから、いますぐ始めよう。そう思ったのです。

幸い、病気は奇跡的に快復しましたが、闘病中の思いは消えることがありませんでした。こうして僕は、アニメに出てくるロボットではなく、人の役に立つロボットを作る研究者を目指すようになったのです。

—幼い頃は、インドで暮らしていたそうですね。

父の仕事の都合で、7歳までの5年間をニューデリーで過ごしました。いまの僕が多様性を自然と受け入れられるのは、文化の異なるインドで生活したことがベースとなっています。

インドの学校では、みんなが他人をリスペクトして礼儀正しかったけれど、帰国してから通った日本の学校はそうじゃなかった。人と違うことで笑われ、女の子と仲良くすることでからかわれる。まったくなじめなかった。おかげで成績は最悪でした。

—成績が悪かった子どもが、どうやって大学まで進み、ロボット研究者になったのですか?

日本では、先生のいうことを聞く子が「いい子」なんですね。周りのみんなは、まるで先生や親にほめられたいから勉強をがんばっている様子でした。しかし学校になじめなかった僕は、先生にほめられなくても構わないと思ったのです。そして、自分のために勉強をしようと誓いました。僕のロボットに関する知識や技術は、専門書を読むなどして独学で身につけたものです。

誤解がないように言っておくと、学校の勉強は大切です。でも子どもたちが、そこにすべてのエネルギーを注ぎ込む必要はない。ましてや、先生や親にほめられたいという理由で、言われた勉強だけをしても意味がありません。そのようにしてできあがるのは、自らの考えで動くことができない「作業者」です。

学校の勉強はほどほどに、自分自身がわくわくすることを見つけて、それをとことん突き詰めてほしい。ロボット作りでもいいし、スポーツでもいい。ゲームだっていい。自分の「好き」を突き詰めた人は、その人にしか発揮できない力を身につけることができ、「創造者」となれます。これからの世の中で求められるのは「作業者」ではなく、人の役に立つものやサービス、技術やシステム、そして感動をクリエイトできる創造者なのです。

子育て世代の親にできること

—いま、子育てをしている親世代に向けてアドバイスをいただけますか?

いちばん伝えたいのは、子どもたちの興味や好奇心、やりたいことを見逃さず、その背中を押してやってほしいということです。子どもの興味の対象が、親の価値観とは違うかもしれない。また、結果が出るまでに時間がかかるかもしれない。でも、そこで親は口出しをせず、子どもの力を伸ばすために我慢してほしい。

最近は、「これやっていい?」「あれやっていい?」と、なんでもかんでも親の許可を得ようとする子どもが多いと聞きます。それではよくない。子どもたちが自分で判断し、自分のやりたいことをどんどんやるべきです。親の言うとおりにしておけば、親子共に楽なのかもしれません。でも、それでは未来の作業者を生むだけなんですね。

かつての日本社会では、会社に終身雇用されていたからそれでもよかった。言われたことだけコツコツやっていれば生き延びることができたのです。けれどいまはそうじゃない。グローバル化やAIなどの技術の進歩によって、ますます個人の力が重要視される世の中です。だから、他人とは違う、その子ならではの力を育むために、子どもの「これが好き」に気づいてやることが大事なのです。

—ロボット研究者を目指す子どもたちにもアドバイスをください。

先に説明したように、ロボット研究はあらゆる理系分野の統合です。しかし一人の人間が、そのすべてに精通することは難しい。メカや電気、コンピュータなど、幅広い研究分野で、いちばん自分がわくわくする道を進めばいいと思います。研究を続けていく上で、苦手な分野の勉強が必要となる場面も出てくるでしょう。わくわくする気持ちで取り組んでいれば、苦手な分野もがんばれるものです。

それから、すぐに手を動かしてほしい。「いつか作りたい」と考えて壮大な計画を練っているよりも、簡単なプラモデルや工作キットでもいいから、まずは作り始めよう。小さな達成感を積み重ねることはとても大切ですよ。

—ロボット研究者に必要な資質は何だと思われますか?

どんなときも、あきらめないことですね。ノーベル賞を受賞された吉野彰先生もおっしゃっていました。自分はあきらめの悪い性格で、それが才能の一つなのだと。研究開発の道はたやすいものではありません。うまくいかないことも非常に多い。けれど僕は、どんなときも、できるかできないかで物事を考えない。どうやったらできるかだけを考えています。

そしてもう一つ、仲間を大切にできること。ヒーロー戦隊もそうですが、それぞれが得意な能力を持っていますよね。これからのロボット研究は、たった一人の人間の力でやっていけるものではありません。自分にできないことがあれば、仲間を頼ればいいのです。どうか、同じ夢を持つ仲間を大切にしてください。

—先生の究極の夢は何ですか?

僕の娘をはじめ、いまの子どもたちが大人になるとき、いい世の中となっていることです。そのために僕はロボット技術を使い、安心安全な社会を作りたいと考えています。大人も子どもも、体の不自由な人も、誰もが共生できる世界。人と人とがつながって、みんなでわいわいがやがやと楽しめる未来を創ることが僕の夢であり、仕事なのです。

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執筆:ヒューマンアカデミーこども教育総合研究所 編集部

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