「子どもに取り返しのつく失敗をたくさん経験させて」三精テクノロジーズの宮崎和也さんが保護者に訴えたいこと
2026/08/27
車が好きな子どもなら自動車メーカーのエンジニアを志し、鉄道を愛するなら鉄道会社で働くことを将来の目標とするかもしれません。では、ロボットづくりが好きな子どもは、どこで働けばいいのでしょう。国内ではそれほど数もなさそうなロボットメーカーへ…?
でも、ロボットを研究・開発できるのは、何もロボットメーカーに限りません。高い技術力を有し、そこに夢を持つ人が集えば、独創的なロボットは生み出せるのです。
今回、我々はなにやら巨大な4足歩行ロボットを開発したと巷で話題の会社を取材すべく、緑豊かな神戸市の奥地にある研究施設へと向かったのでした――。
三精テクノロジーズ株式会社技術顧問
宮崎和也(みやざき・かずや)氏
1960年生まれ。1985年に三精テクノロジーズに入社。2008年に昇降機事業本部設計部長、2013年に舞台機構事業本部設計部長に就任。2017年の執行役員生産管理部長を経て、2019年には取締役執行役員品質本部長兼ニューテクノロジー&ビジネス開発室副担当役員に。2023年の取締役常務執行役員昇降機事業本部長兼CTO就任。2025年の技術顧問就任を経て、現在に至る。
ゾウとトランスフォーマー
「顔がねぇ、かわいいんですよ。ちょっとカレーパンマンみたいでしょう?」
目の前でのしのしと動く巨大ロボットを指して、微笑みながらそう話すのは宮崎和也さん。このカレーパン…ではなく、「SR-02」の生みの親です。
4人が乗れる世界初の4足歩行ロボット「SR-02」を、テレビの報道番組や2025年大阪・関西万博で目にしたことがある人もいるでしょう。まるでゾウのようにゆっくり歩き(分速9メートル!)、4名の人を乗せて「おすわり」やその場での「おまわり」もできます。
この動きを実現しているソフトウェアは、アスラテックの吉崎 航さんがつくったロボット制御システム「V-Sido(ブシドー)」。はしごを使い、遊園地のアトラクションのようなシートに実際に座らせてもらうと、オープントップバスに乗っているかのような感覚です。これは、楽しい…!
「ロボットのデザインは、さまざまなアニメーションを手掛けているメカニックデザイナー・天神英貴さんにお願いしました。SR-02については『スター・ウォーズ』に出てくる4足歩行ロボットみたいなイメージでお願いしたものです。それらしいカッコいい系のSF的?デザイン案なども複数あったのですが、とりあえず最初は一番作りやすいカタチで(笑)」と宮崎さん。
ちなみにSRは「三精ロボティクス」の略。「02」があれば、当然「01」もあります。こちらは2018年に試作機が発表された1分以内で――つまり信号待ちのあいだに――車から人型に変形できるロボットです。『トランスフォーマー』のロボットが現実にいたら、こんな感じなんだ…と思わされます。
「ビークルモードの動力はモーターで、いわゆる電気自動車ですね。ロボットモードでは2足歩行が可能ですが、タイヤで走ることもできます。踊ったりジャンケンしたりもできますよ。ただ、リピーターを増やすためにも、持ち芸を多くしようと思っていて…今考えているのは、しゃべらせることかな」
ところで、わずかな期間でいきなり2機のロボットを発表したこの会社、実はロボット専業のメーカーというわけではないそうで…。
エレベーター製造が祖業の会社、ロボットを作る
三精テクノロジーズ――。名前を聞いてどのような会社かすぐに思い浮かぶ人は、それほど多くはないかもしれません。一方で、これまでその製品にまったく無縁だった人も少ないはず。宮崎さん、三精テクノロジーズがどんな会社なのか教えていただけますか。
「当社は1951年に、エレベーターの製造からはじまりました。それから舞台装置や遊戯機械を手がけるようになり、今はこの3つが事業の柱になっています。宝塚の劇場やフェスティバルホール、そして各自治体の県民会館などの大きな劇場に備わる『せり上がり舞台』や『音響反射板』などを含む舞台装置については、国内最大手です」
「手前味噌ですが」と少しはにかみつつ、それから…と誇らしげに続ける宮崎さん。
「遊戯機械にもいろいろありますけれど、当社が扱うのは、いわゆる人を乗せて動く大型のものですね。走るものであればジェットコースター、急流すべりやメリーゴーランド、ティーカップなども。海外の会社もグループ化したので、シェアとしては世界でもトップクラス…あ、これも手前味噌ですけれど(笑)」
そう、富士急ハイランドやナガシマスパーランドといった各地の遊園地で、きっと誰もが一度は三精テクノロジーズの技術に触れているはず。そして、これらの機械に共通しているもの、それが「昇降」と「回転」です。
「エレベーターや舞台装置をやっていたので、重たいものを静かに、そして確実に動かすというのはとても得意でした。だから、他のロボットの実物や図面を見ても『まあ、機械的にはいけそうだね』という感じでした。
ロボットの関節なんて、言うたら回転運動ですからね。重心移動もスライド機構じゃない?と。とにかく絶対に無理!という感じではなかった」
これら以外にも、オーダーメイドの製品を作る技術を持つ部門を含めた技術とノウハウを集めたら「SR-01」や「SR-02」ができてしまうのだから、三精テクノロジーズ、おそるべし。
とはいえ、急降下や急旋回のスリルを楽しむナガシマスパーランドの「白鯨」と、分速9メートルで歩く「SR-02」が同じ会社の製品と聞いても、にわかには信じられません。いったいこのロボットは何を目的につくられたのか、そして何に使おうとしているのか…?
「オモロそうだからやってみよう」の賜物
「ロボットと一口に言っても、いろいろなロボットがありますよね。最近では人を案内するロボットだったり、アミューズメントに特化したペット型ロボットだったり。でも、どれも小さいですよね。当社は遊戯機械を作っている会社ですから、人を乗せたいなと。そして、やっぱり誰もやっていなくて、見たことないモン、作らないといけないじゃないですか」
三精テクノロジーズがロボットを作るようになったワケを、宮崎さんはこう説明します。
彼いわく――人を乗せて動くものは基本、タイヤやローラーを使っている。それを2本足や4本足で歩いたら、オモロイはず。そしてそんなデカいロボットは、誰もやっていない。だからやろう! そんなノリだそう。…上場企業としては冗談みたいなエピソードですが、これは本当の話です。
「乗るだけじゃなくて、誰かが乗っているのを見ている人も『私もあれに乗りたいな』『私もあれを動かしたい』と思うような、人を楽しませるモンを作りたかったんです。まぁ、最初はコレ、遊園地にあったら売れるんじゃないの?という下心もあったけれど」と笑う宮崎さん。
三精テクノロジーズに入社後、エレベーターなどの設計部門を中心に技術者としてのキャリアを歩んできた彼。あるとき、「ニューテクノロジー&ビジネス開発室(略称:NTB)」という部門への配属を命じられ、その後はこの会社の最高技術責任者(CTO)まで務めました。
「初代CTOの方が取り組んでいたNTBのことを、実は横目で見ていたんです。正直ね、『おもしろそうやな、機会があればぜひやりたいな』と思っていました。だからまさか2代目のCTOとして、ロボット開発を引き継げるだなんて。恵まれているなと思い、喜んで受けさせていただきました」
かくして、彼らの開発によって生を受けた「SR-02」ですが、展示会やイベントなどでこのロボットを目の当たりにした人の声は、宮崎さんたちを驚かせます。
「『このロボットは、月に行ける?』とか『原発事故のごみ(燃料デブリ)を取りにいけないのか?』とお客さまに言われるわけですよ。これはひょっとすると、自分たちが考えていた遊園地の乗り物やテーマパークのパレードといった用途以上に、他の企業さんともコラボすることによって、想定以上の使い方ができるんじゃないかと思って」
「SR-02」は遠隔操作ができるため、“大きなラジコン”として捉えて競争させることも不可能ではありません。もしかしたら、互いの的を狙うバトルゲームのようなものに使えるかもしれない。いや、劇団四季の『ライオンキング』の舞台でも活躍できるのでは…。彼の夢は広がります。
「これもいけるか?あれもやれるかも?みたいに考えている今は、まさに一番オモロイときかなと」と嬉しそうに語る宮崎さんは、御年66歳にして “少年の笑顔”を見せました。
エンターテインメントは誰の役に立つのか
しかしながら、宮崎さんもロボット研究・開発に関して悩んだ時期があったそう。
「どのカテゴリーであっても、ロボットは人の役に立つものであると。これは大前提なんですよ。じゃあ『我々のロボットは、どのように人の役に立つんだ?』と。ストレートに言えば、別に存在しなくても暮らしとしては困らない。だから人を喜ばすことの意味をずっと考えていましたし、個人的にも究極の悩みでした」
そんな折、新型コロナウイルスによるパンデミックが起き、世の中のエンターテインメントが営業自粛に追い込まれました。そして、そこからのエンタメ業界の驚異的な回復を目の当たりにして――。
「私は『やりたいことができない』という我慢でストレスを溜めるのは、動物の中でも人間だけやと思っているんです。でもコロナ禍からの需要回復を見て、やっぱり人間という生物が求めているものは“楽しみ”であり、笑顔になることなんだ、と。楽しむことや笑うことは、人間に必須。なので、我々の作るロボットはその方向で行こうと確信しました」
人を楽しませるのと同時に宮崎さんたちが大切にしているのは、安全です。「安全なくして楽しみなし」をモットーに、ロボットの研究・開発に取り組んでいます。各国の安全基準は最低条件と捉え、さらに厳格な規準でものづくりに取り組む。これは、エレベーターや遊戯機械に長年携わってきた三精テクノロジーズならではの矜持です。
とはいえ、例えば「SR-01」をジャパンモビリティショーに“モビリティ(移動手段)”として展示したこともありますが「車として物理的には走れるものの、車検も通していないし、法的にはアウトでしょうねぇ」(宮崎さん)。それでも彼は、またしても少年のようなまなざしで、こんな夢を語ります。
「もし渋滞でね、SR-01がいきなりロボットに変形して、並んでいる車列の横をガチャガチャガチャっと歩いていったら…、漫画みたいですけれど、そんなんできたらおもしろいなって。いや、本当は飛べたら一番カッコいいんですけれど(笑)」
子どもの頃はプラモデルに夢中で、小学校では科学工作部に入り、自作のハンカチ洗濯機を作り上げたという宮崎さん。『ウルトラセブン』や『ゲッターロボ』など、当時放送されていた特撮やアニメに登場する合体・変形メカに、胸をときめかせていたんだとか。今、その夢を実現できそうな場所にいることに、とても満足そうに見えました。
失敗をめぐるコミュニケーションは成功の母
「当社に今ある、多くの技術。もちろん研究・開発の中で培ってきた部分もありますけれど、実は結構な失敗の上に成り立っているんですよ。あ、これ言うたら怒られるかも」
宮崎さんが冗談めかしながらそう語りだしたのは、ものづくりにおいて遭遇する失敗や挫折について聞いたとき。子どもの頃のものづくりでは「うまくいかなくて、あっさりあきらめることもあった」そう。しかし…。
「でもね、『もういいや』と思ってあきらめたものでも、5年後や10年後に『ちょっと待て、もしかしてこうすればできるんじゃないか?』と思い返すことがあるんですよ。まだ頭のどっかで覚えているというか、探究が続いているんでしょうねぇ」
好きだからこそ人は探究するし、もっとうまくできるように学ぶ。それでできたものが誰かに「こんないいもの作ってくれてありがとう」と望まれるのは、技術者として一番幸せなこと――これまでのことを振り返るように静かに笑みを浮かべながら、そう語る宮崎さん。
「AIがどんなに台頭しても、私は製造業はなくならないし、匠の技を持つといわれる技術者が滅びることはないと思っています。AIは過去にあったものしか作れないし、好きでやっているわけではないので“匠”にはなれないんですよ。
そして、これから人口が減少し、さらにロボットのニーズが高まっていくでしょう。だからこそ、ロボット教室などで最先端のロボット技術に携わっていくことは、私としては損はないと思います」
成功と失敗を繰り返し、匠の技術を積み重ねてきたそんなベテランの彼が、人を育てるときに大切にしているのは、機会を与えること。
「私も人の親ですから、子どもに取り返しのつかない失敗はさせてはならないと思います。でも、取り返しのつく失敗を経験させることは非常に大事。転んで痛いことから、子どもは学ぶんです。何もやらせずに口で言うだけではダメだし、『それしちゃアカンよ』と言ってばかりでも学ばない」
そして、もう一つ大切にしていること。それは、その過程におけるコミュニケーションです。
「やってどうだった? おもしろかった?などと聞いて、『ここまでしかできなかった』と答えても『そこまでできたなら、たいしたもんやんか』と褒める。そこから、ちょっとだけ文句を言うんです(笑)。私は部下に評価を伝えるときも、良くなかった人には『ここまで、めちゃくちゃ良かったよ!』と褒めたあとで『でもな…』と言う。反対に良い評価を取った人には、しっかり叱る。これは失敗したお子さんに対してもそうでね、『いや、ここまでできているなんてすごいやん、この先はなんでできへんかったんやろねぇ』と一緒になって考え、一緒にやってあげる。ひとりぼっちにしないのが大事」
彼は子どもを持つ保護者に対しては、「日頃のコミュニケーションが大事になりますが、子どもが本当に困ったときに相談してくれる親になってほしいですよね。『これはお母ちゃん、お父ちゃんに聞いてみよう』って」とアドバイス。
「それでね、お母ちゃんもお父ちゃんも若いときはほんまに苦労してな…みたいな話を聞いたら『あ、この人たちも同じように悩んでいるんだな、と思うはず』。私らは全然完璧じゃないよ、いっぱい失敗してトラブルもいっぱい経験している。みんな歩んできた道は一緒だから、あなたも全然そんな気にせんといてよねーと言ってあげる――あ、『その代わり、私も泣きつくかもしれんけれどね」なんてことも言ってね(笑)」
子どもが心配なあまり、つい過剰にレールを敷いてしまいがち。でも、人に寄り添う。見守る。そして、信じる。それがあれば、人はどこまでも成長できると宮崎さんは話します。だから不安に思う必要はないのだと――。
「子どもって、親御さんが考えているよりもかなりしっかりしていますよ。ちょっとびっくりするぐらいに。よく言うじゃないですか『最近の若いやつは』って。いやいや最近の若手、めちゃくちゃしっかりしていますから」と。
そう、実はそんな若い人材が、三精テクノロジーズには殺到中。特に「SR-02」を公開して以来、ロボコンのロボットを携えて「ロボットをやりたいです!」と入社を希望する人が引きも切らないんだとか。
ロボットと人を愛する宮崎さんの薫陶を受け、人を笑顔にするロボットに携わる人材は、これからどんどん育っていくはず。実際、この撮影時に「SR-02」をリモコンで動かしていたのは、入社して間もないという若手社員でした。そして、その事実を教えてくれた宮崎さんの表情は、まるで子の成長を喜ぶ親のそれだったことも記しておきましょう。
さて、取材を終えて、研究施設の敷地内で歩いているときのこと。宮崎さんの「あー、良かった!アスラテックの吉崎さんみたいにうまいこと話せるかな?とずっと思ってて…」という安堵の表情が印象的でした。インタビュー取材で“失敗”しないよう、実は内心ドキドキしていたようす。いっさい偉ぶることないい自然体なスタイルが、彼の人間的な魅力なのかもしれません。
そうそう、取材中にはもちろん聞いてみました。こんなに広い研究施設があり、優秀な人材も入ってきているのだから、当然「SR-03」のプロジェクトも進行中なんでしょ?――と。宮崎さんは「ロボットにこだわらず、私たちはそれぞれの分野で、探求する心を忘れずに日々挑戦を続けています」と意味ありげにニコリ。
宮崎さんの豊富な知見に若い力を加え、よりパワーアップした三精テクノロジーズ。これからもきっと私たちを驚かせ、大いに楽しませてくれるはずです。
取材・執筆:スギウラトモキ
