【後編】ロボット教室運営オーナーから探る「SDGs」と「教育」について
2020/11/17
海洋ゴミを使ってクジラの模型を制作する「eco robo mate(エコロボメイト)」の2人は、「ヒューマンアカデミーロボット教室」に通っている小学6年生。後編では、ロボット教室を運営する田中先生のインタビューを通して、実際に子どもたちと接する教育者としての想いを探りました。
―「くじらプロジェクト」はとても素晴らしい活動ですが、先生がご提案されたのでしょうか?
田中先生(以下、先生):何かやってみない?という持ちかけは私からしましたが、企画の内容はほとんど子どもたち2人が考えました。私は、ヒューマンアカデミーロボット教室を運営するなかで、子どもたちが実際に社会課題を解決していける場づくりができたらいいなと思っていて、地域のイベントへの出店を提案してみたんです。そしたら子どもたちが乗り気になって。
企画を詰めていたところ、コロナの問題で中止になってしまったのですが、もう一度子どもたちに「中止になったけどどうする?」と企画会議をひらいて投げかけてみました。すると子どもたちは「コロナに気をつけて自粛するのは大事だけど、環境に対する活動を止めていいわけじゃないよね」という答えを出してくれて。じゃあ今できる形は何かと話していたら、「ゴミでおもちゃを作る様子をオンラインで配信しよう!」という案が出て、そこから急スピードで活動が始まりました。なので私は、最初のきっかけや質問を投げかけるといった“場づくり”を心掛けていただけです。
―子どもたちのモチベーションを上げるために、どのような工夫をされましたか?
2人には「うちの会社の社員になってみない?」という風に提案をしてみました。ただ単に親や先生に言われたからやるのではなく、「一定の目標や目的を持って、何のためにイベントをするのか」を考えてもらいたいと思ったからです。毎回の企画会議で、本人たちなりのゴール設定を定めてもらって、そのためにどう動くのかといった責任を持ってもらっています。まだまだな部分もありますけど、自主的に動けるように育てていけたらいいなと。
―社員ですか!かなり大胆な提案のように感じます。
もしこの活動を通して収益が出たら還元するよ、という意味です。経済的な側面でも「SDGs(注1)」の観点は大事だと思うので、いつか事業として形になるくらいのところを目指してほしいなと思っています。
(注1)SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2016年~2030年という15年の間に国際社会が達成すべき目標を掲げたもので、大きく分類して17の目標から構成されている。SDGsについて詳しくご紹介している記事はこちら。
―田中先生のなかで、何かきっかけがあってそのように考えられるようになったのでしょうか?
元々、ロボット教室を始める前に、大学院でビジネスについて勉強していました。娘が生まれて子育てをしていくなかで学び直したいという気持ちが強くなって。変革の激しいこの時代に、どういうビジネスを創っていくかを学ぶなかで、やはり「SDGs」の観点はよく議論に上がっていましたね。特に私は女性として感じる部分がけっこうあって、SDGsの目標5にある「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」という項目に注目していました。日本でも「女性参画」などの言葉は耳にしても、根本では根付いていないのでは?法制度だけの問題ではないのでは?という疑問を抱いていましたし、幼いころから教育や家庭のなかで言われてきたことが、根元に溜まっているのではと思ったんです。
娘が生まれて、余計にそう感じるようになったのかもしれません。性の意識をせずに平等に学んだり、夢を見たり。そういうフィールドを作ってあげたいという想いもあってヒューマンアカデミーロボット教室の開講に至りました。
―最初から「ロボット教室」を運営したいと思っていらしたのですか?
最初はプログラミング教室を探していたのですが、ただプログラミングに直結するだけでなく、ロボット教室のように「楽しく遊びながら」とか「触って実際のものを見たりしながら」というのがいいなと思ったんです。キーボードだけで完結せず、他の能力を鍛えられるという点も魅力的だなと思いました。
ロボット作りに興味のない女の子も多いですが、そこから得られる「空間認識能力」や「論理的思考力」など、いろいろな機会から女の子が遠ざかっているというのが、すごくもったいないな、というのも感じて。趣味趣向の根元的なものから、考え方の違いに結びつくのかなと思いました。だから娘にも「女の子」というイメージの枠にとらわれない学びをしてほしいと思っていましたが、唐津にはそういった学びが見つからなかったので、だったら始めてしまおう!と。
―田中先生から見た「ロボット教室」の良いところを教えてください。
ロボット教室は、子どもたちが本当に楽しいと思えるところから始めて、「いつしか知識などが身についている」というところが素晴らしいなと思っています。生徒さんたちを見ていると、最初はかなり賑やかしいんですね(笑)。開講当初は「どう集中させよう?」と四苦八苦していたのですが、子どもたちが一旦“好き”という感情を持つと、自ずと集中してちゃんと吸収していくんだなと気付きました。運営を続けながら私も勉強になっています。
また、実際の教育って、知識を習得するだけがゴールになってしまいがちだと思うんです。公教育や習い事でも、何でも。でも「学んだものをどう生かしていくか」という経験がすごく大事なのではと思っています。点数が取れてゴールではなく、「学んだことを活かす場」を作ってあげたいというのが私としては強かったですし、それができるのがヒューマンアカデミーロボット教室だと思います。前編で取り上げていただいた「くじらプロジェクト」の活動もその延長線上にあります。
女性だから、男性だから、という社会構造に飲み込まれる前の幼い時代に「自分で試行錯誤して行動を起こす者にはチャンスがある」ということに気づいてもらえるような、そういう勉強をさせてあげたいと思っていました。
また、なんらかの障がいのある子も、好きなものにすごい才能を発揮することがありますよね。それは教室を運営していてすごく嬉しい瞬間ですし、そういった学びの機会を均等に与えられるのがロボット教室の良いところだと、身に染みて感じています。
田中 綾
株式会社エシカラナ 代表取締役、有限会社アーク 取締役
[経歴]福岡大学商学部卒業後、会計事務所にマネージャー職として勤務。結婚を機に、家業である高級車ブランド車のシート製造を行う縫製業に経理・財務として入社。事業承継予定者として新事業の必要性を感じ、2018年4月に福岡事業構想大学院へ1期生として入学。三児の母として両立しながら、佐賀県唐津市より2年の通学を経て今春MPD(事業構想修士号)取得。通学時に地域の子供向けにヒューマンアカデミーロボット教室開校・主宰や、修了後に大学院での新規事業構想を軸に環境を主軸としたサスティナブルなアパレル事業と教育事業を立ち上げるなど、多彩な事業を構想・展開する。