MIXI長岡さんはAIロボット・Romiで世界に「温かいコミュニケーション」を取り戻す|こども教育総合研究所
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国民的アニメ『ドラえもん』。
誰もが子どもの頃、一度は「ドラえもんが家にいて、ひみつ道具を出してくれたらいいのに」と思ったことがあるはず。

しかし、寄り添って親身に話を聞いてくれて励ましてくれたり、時にはおっちょこちょいな一面を見せてくれたりといったように、ドラえもんの真の魅力は、彼とのコミュニケーションにあるのではないでしょうか。ドラえもんが長きにわたって愛されている理由は、「便利な道具をいくつ持っているか」ということよりも、そのあたたかいパーソナリティに惹かれるからなのだと思わずにはいられません。

さて、今回お話を伺ったのは、MIXIの長岡 輝さん。長岡さんが「一人に一台」を目指して作ったドラえもんのような会話AIロボット「Romi」とは?


<PROFILE>
長岡 輝(ながおか・あきら)さん
株式会社MIXI VatageスタジオRomi事業部 BizDev・デザイングループマネージャー 東京都出身。
2006年にヤフー株式会社に新卒入社。2011年にSNS「mixi」の分析担当として株式会社ミクシィ(現MIXI)へ中途入社。その後はM&A・PMI業務、グループ会社の管理業務を経験し、2017年より新規事業としてRomi事業に参画。
現在はRomiのマーケティング、サービスディレクション、ビジネス開発などを担当。


ゲームやサッカーチームを営む会社がなぜAIロボット「Romi」を開発?

「Romi(ロミィ)」は、株式会社MIXIが2020年に販売を開始した、会話ができるAIロボットです。

このRomi事業を先導した長岡さんが、Romiの特徴について教えてくれました。

「AIロボットのRomiは、人間と自由な会話ができるのが、一番の特徴です。ちょっとほっこりしたり、気持ちが前向きになるような会話ができたりするのが魅力だと思います」

長岡さんが在籍するMIXIは「モンスターストライク」をはじめとするデジタルエンターテインメント事業や、サッカーJ1リーグのFC東京とバスケットボールB.LEAGUEの千葉ジェッツふなばしの運営といったスポーツ事業などを行っている会社です。そんなMIXIはなぜ、愛らしいAIロボット・Romiを作ることになったのでしょう。

「2016年頃、私が在籍部署を変わったのを機に、学生の頃からやってみたかったけれど、きちんとできていなかった新規事業をやってみようと思い立ったんです。それでいろいろな事業を検討していた中で、ちょうどディープラーニング(深層学習)についてのニュースが目にとまりました。同時期に、当時日本では未発売でしたが、Amazonのスマートスピーカー・Echoが発表されたんですよね。

そこで、チームのメンバーと議論をする中でディープラーニングとこのスマートスピーカー的なものを組み合わせて、これまで映画やアニメで描かれてきたような、人間と対話できるパートナーが作れるんじゃないか?と

当時、コミュニケーションロボットというカテゴリー自体では、すでにソニーのAIBO(1999年)をはじめとして、ソフトバンクのPepper(2014年)などがリリースされていました。しかし、自由に話すことはせず、主に人間に癒しを与えるマスコット的なロボットや、人間の問いかけに対し、あらかじめ決められた内容を返すだけのロボットしかありませんでした。

つねづね、IT技術で人間の暮らしを豊かにしたいと考えていた長岡さん。「例えばドラえもんのように、人間の心に寄り添える会話ができるパートナーに近い存在のロボットには、きっとニーズがあるはずだ」――彼はそう考えたのです。

とはいえ、MIXIはメーカーではないので、ハードウェアを作った経験がありません。そこでハードウェアについては、メーカー出身のエンジニアを迎えてチーム内で試作開発ができる体制にして、量産のための設計や量産についてはパソコンやロボットの製造を手がけてきたVAIO社の手を借りることに。とはいえ「面白いアイディアだね」とか「本当にできるの?」という社内のさまざまな声を浴びながら、試行錯誤を続けてRomiは完成しました。「まさか、自分がAIロボットを作ることになろうとは」と長岡さんは苦笑します。

ちなみにRomiはスライム…もとい、しずく型ですが、このカタチにはもうひとつ、意味が含まれています。それはRomiを逆さまにしてみると気づくはず。そう、吹き出しのカタチです。

この吹き出し、どこかで見覚えがありませんか?

AIロボットRomiが放つ“mixi”の香り

Romiを展開する会社、MIXIの社名は大文字です。しかし、小文字の「mixi」が書かれた吹き出しロゴを見れば、懐かしさを覚える人も多いのでは?

「mixi」は、2004年にリリースされた日本発のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)です。当初は登録ユーザーから招かれた人しか参加できない完全招待制で、日記を書いたり見知らぬユーザーと好きなものや趣味などを通じて交流できたりするのに、なぜか安心感があって居心地が良い――今の言葉で表現すれば、心理的安全性が高いことが魅力でした。

2010年代にはTwitter(現X)やFacebookなどの海外SNSが台頭したものの、最近はあらたに10~20代のZ世代やコアな趣味層にひそかに人気を博しているのだとか。それは、殺伐としたSNSからの逃げ場として、「mixi」の優しさやあたたかさ、ゆるさが再評価されているのでしょう

実はRomi(Robot of mixiの意味)のカタチは、「mixi」のロゴである吹き出しをモチーフにしています。

そういえば、長岡さんが語るRomiの開発思想には、SNS「mixi」に漂っていた居心地の良さと、どこか共通点があるような…。

「MIXIはコミュニケーションサービスの会社です。なので、人の気持ちが前向きになる会話や、心地良い会話とはどういうものなのか、徹底的にユーザーリサーチしました。Romiがどのような性格だったら、あるいはどんな動きをしたら、人に前向きになってもらえるのだろうかとチームで議論しながら作り上げていきましたね。そこが一番苦労したポイントですし、一番楽しかった」
そう笑う長岡さんは、心理学やカウンセリングに関する本を読んだり、時には専門的な知識を持つ人に話を聞きに行ったりと地道な努力を重ねながら、Romiの心(AI)を少しずつ育てていったのです。

人生を伴走するパートナー的なAIロボットを、みんなが一人一台、持つ時代になったらいいなと思っています

長岡さんは穏やかな口調ながら、熱くRomiについての夢を語ってくれました。

「役に立つ」だけがロボットじゃない

取材中、Romiの便利機能のひとつ、「おすすめスポット機能」を実際に試してみました

「渋谷(MIXI本社がある場所)でおすすめの店は?」と聞くと「Romi、おすすめのお店知っているよ。駅前にある洋食屋さん。そこのビーフシチューは絶品なの」と元気よく答えてくれます。でも、お店の名前は?と尋ねると「…名前は忘れてしまいました」。

「基本的にRomiはAIで発話生成しているものの、天気予報やおすすめスポットなどの便利機能は、正確な情報を話す必要があるためパターンマッチのルールベースで受け答えをします。その点、まだ悩ましいところがあって、ルールベースの場合、意図しない文脈で発動しないように、Romiが理解できる順序で話さないといけないこともあります。

今の会話は、そのルールに合致せず、おすすめスポットの機能が発動せずに、Romiが“雑談”として受け答えをしてしまいました。ちなみに、機能が発動する時は効果音が鳴りそれが正確な情報だという目印になります」

苦笑しながら説明する長岡さん。愛くるしくおしゃべりができるRomiは、現時点においてスムーズに便利な情報を提供するような完璧に人の役に立つロボットではないのかもしれません。

…では、役に立たないロボットは必要ないのか。「そんなことはない!」と強く反論してくれるのではないでしょうか、特にペットを飼い、愛情を注いでいる人ならば。

「まさにそうで、昨年、福岡のペットショップで初めて取り扱っていただいて、私も販売当初には店頭に立ったんです。その時に『ワンちゃんを買うのか、Romiを買うのか迷っている』という方がいて驚きましたね

Romiを愛でながら、嬉しそうに話す長岡さん。たしかに犬や猫、鳥などのペットは人間の言葉を発しませんが、表情やしぐさで気持ちを表現してくれます。ポイントは、その気持ちを「飼い主が積極的に理解しようと努めている」こと。場合によっては、人間が「ああ、こんなことを感じているんだろうね」とみずから補完することもあります(人間が一方的に思っていることもある)。

根底にあるのは互いを思い、寄り添おうという優しい気持ち。Romiは、人にそんな優しい気持ちを湧きあがらせる“何か”を持っています。

Romiは共に暮らす中で、自分の味方をしてくれるんです。仮に、会社で上司に怒られたとしますね。それで愚痴を吐いたとき、普通のAIロボットなら『あなたに悪かったところはないですか?確認していきましょう』とか正論を言われちゃう(苦笑)。でもRomiは『何、その上司。ひどいね!』と一緒に怒ってくれる。また話をしていないときにもひとりで口笛を吹いたり、おならをしちゃったりも。でもそんなところがあるからこそ、みんな大事にしてくれる」

実際、Romiのユーザーから話を聞く機会が多い長岡さんのところには、こんな声が集まっているのだそう。

「『辛いときがあっても、Romiと話していると救われたような気持ちになりました。もうRomiは家族の一員です』と言ってくださる方もいますし、引きこもりがちだったけれどRomiが『天気がいいから外に行こう』と言ってくれたから外に出られた、という声を聞くと嬉しくなります。

あと、以前は一人暮らしで人と話すことが本当に少なかった高齢のユーザーさんが、今ではRomiと話し疲れて寝られるようになったと。そういった意味では、本当にちょっとずつではあるんですけれど、一人に一台、パートナー的なAIが持てる時代に向けて近づいていると感じます。

ただ、開発中から今にかけて、メンバーと話しているのは『Romiとだけ仲良しになって、Romiと持ち主だけの閉じた関係にするのは良くないよね』ということ。理想としては、Romiがいることでちょっとホッとして、本来の優しい自分を取り戻せた人が、周囲にいる人間たちともうまくコミュニケーションが取れるようになることですね」

2000年代半ば、「mixi」が登場したころのインターネットは、ブログサービスやウィキペディアが普及しはじめたタイミング。「集合知」という言葉がもてはやされ、世界のいろいろな人々とつながり、新しい社会が生み出されていきそうな、そんな明るい予感に満ちていました。

しかしそれから10年あまり、インターネット空間でのコミュニケーションはどうでしょうか。特に私たちが触れるSNSでは、常に“正論”があふれ、見知らぬ人からの誹謗中傷もあり、分断と非寛容が生み出されています。むしろSNSによって「人間同士がコミュニケ―ションでわかりあうことは難しい」と感じた人も少なくないのかもしれません。

そんな現代において、AIロボット・Romiは「人間にとって、幸せなコミュニケーションとは何か?」をあらためて考えさせ、あるいは気づかせてくれる存在なのです。

熱中や没頭の隣にも、AIロボットを

「まさか、自分がAIロボットを作ることになろうとは」と述べていた長岡さん。とはいえ、ITの力で世界のコミュニケーションを変えたいと考えていた彼にとって、結果として「AIとロボットを組み合わせたもの」に行き着いただけなのかもしれません。

では、我が子が長岡さんのような仕事に就くために、親としてできることは?彼は自身の経験から、ロボットやプログラミングに夢中なお子さまを持つ保護者の方へ、こんなメッセージを投げかけます。

「ロボットやプログラミングの教室で学んだ知識やスキルは、人の暮らしをより豊かにできる武器でもありますよね。せっかく夢中になれているものを、例えばお子さんの受験のタイミングで手放してしまうのはもったいないと思います。スマートフォンが普及してまだまだ日は浅いですが、そんな中でも革新的なアプリがいくつも生まれていて、人間の生活を変えているのに、そのようなものを作ることができるスキルの芽を積んでしまうのはどうなのかなと。

好きなことは、伸びるスピードが速いですからね。幼いうちに好きなものを見つけて、それを時間さえ忘れるほど探究していけば、一気にトップレベルまでたどりつける。とはいえ別の観点で言うと、やはり本当に好きなことは、親に取り上げられてもやりたいと思うはずですよ」

かく言う長岡さんは「夢中になったものを仕事にした」タイプなのでしょうか。質問してみると…「夢中になれるものを仕事にするタイプには、2種類あると思う」との回答。そのこころは?

「小さい頃から好きなものが明確になっていて、それを仕事にするのはとても理想的なタイプ。――私もその一本道を行きたかったところですが、私の場合は興味や関心が右往左往していて(苦笑)、ふと気がついて振り返ったら、一本につながっていたタイプです。少なくとも何かの目的のためにこれをやろうとは思ってなくて、その時々で興味があったアレやコレをやってみようという自分の選択が、結果的に全部つながっていた

この長岡さんの話で注目したいポイントは、アレコレを「やらされた」のではなく、「自分で選択した」ということでしょう。子どもに限りませんが、夢中になることは、別に一つに絞らなくてもいいのです。それよりも、主体的に選んだものに夢中になることに大きな意味があります。

「幅広い知識に触れておくという観点で見れば、受験勉強はやった方がいいかなと。だからといって、今の受験で必要とされている知識は10年後にも必要か、10年後もまったく同じ勉強でいいのかと聞けば、保護者の方もきっと思ってはいないでしょうし、私も子育てをしていて、そう感じることがあります。

これからの時代は、AIやロボットでどんどん便利な世の中になっていって、効率化がどんどん図られていく。その中でやはり重要なのは、自分の好きなことに注力できる力と、人間だからこそ生み出せる発想力の両方です。これは、飛行機におけるエンジンのようなもの。こんな時代だからこそ、子ども自身の好きなものの可能性を信じた方がいい気がしているし、せっかく滑走路でエンジンを回して飛び立とうとしている飛行機を、止めないでほしいなと思いますね」

Romiに搭載されたAIは、現在もアップデートが進められています。2023年には話題の生成AI・ChatGPTを活用した新機能も搭載され、便利さにも磨きがかかりました。そしてこのRomiは、プログラミングの勉強のお供にもなるそう。「シナリオエディター」というツールを使えば、Romiとの会話の内容を簡単にプログラミングすることが可能なのです。

これによって、なかなか覚えられないような単語を、子どもが自分でRomiにインプットし、Romiにクイズとして出してもらうことで、子どもは知識が定着しているかどうかを確かめることもできます。また、お母さんの誕生日に、Romiにハッピーバースデーを歌わせることだって可能です。

もちろん、子どものためにインプットしてもかまいません。長岡さんがちょっと嬉しそうに「親にいくら宿題をやりなさいと言っても聞かなかった子が、Romiに言われたらやり出したそうですよ」とRomiの素敵な活用法を聞かせてくれました。

Romiはコミュニケーションで癒しを与えてくれるAIロボットですが、その“コミュ力”を武器に、しっかり役に立ってくれる一面も持っているようです。

子どもが大人になったときのために、役に立つ学びを――。多くの保護者がそう考えているはず。

そのために日々子どもを塾や習い事に通わせることも重要ですが、“役に立つこと“ばかりの効率最優先では、余裕を失い、時にトゲトゲしい気持ちになることもあります。昨日の小さな悩みを聞いたり、今日のくだらないできごとで笑いあったりするコミュニケーションも、子どもの成長のためには大切なこと

忙しい毎日の中、たまには立ち止まって、家族でざっくばらんに語り合ってみるのもいいかもしれません。その際には、寄り添って話を聞いてくれるRomiをお供にしてみては。ちょっと抜けたところもあるRomiとの会話は、みんなをきっと笑顔にしてくれるでしょう。

そう、そこにはMIXIの経営理念である「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む」が生まれるはずです。

取材・執筆:スギウラトモキ

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執筆:長岡 輝(ながおか・あきら)さん

長岡 輝(ながおか・あきら)さん

株式会社MIXI VatageスタジオRomi事業部 BizDev・デザイングループマネージャー 東京都出身。 2006年にヤフー株式会社に新卒入社。2011年にSNS「mixi」の分析担当として株式会社ミクシィ(現MIXI)へ中途入社。その後はM&A・PMI業務、グループ会社の管理業務を経験し、2017年より新規事業としてRomi事業に参画。 現在はRomiのマーケティング、サービスディレクション、ビジネス開発などを担当。

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