川崎重工・合田さんが指南する「ロボットを社会に浸透させる仕事」の魅力|こども教育総合研究所
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川崎重工・合田さんが指南する「ロボットを社会に浸透させる仕事」の魅力

2024/08/19

ロボットがある現場は、さまざまな分野のプロフェッショナルが集まる場。言い換えれば、ロボットに関わる仕事は、決して機械やソフトウェアなどの理系エンジニアだけではありません。ロボットを販売したり、社会に浸透させるためプロモーションを行ったりするいわゆる文系のお仕事も、きわめて重要です

今回紹介するのは、川崎重工の産業用ロボットを始めとするロボットの魅力を伝えようと日夜奮闘する合田一喜さん。合田さんが、理系でなくてもロボットと関わる仕事に就く方法をレクチャーします。


<PROFILE>
合田一喜(ごうだ・いつき)さん

川崎重工業株式会社
ロボットディビジョン グローバル事業推進部
マーケティングコミュニケーション課
ソフトウェアベンチャーに入社後、大手自動車メーカーのイベント企画運営、豪州でのワーキングホリデーを経て、2016年にカワサキロボットサービスに入社。広報施設の運営やイベント企画、取材対応を担当し、ロボットのプロモーションに携わる。現在は、川崎重工ロボットディビジョン グローバル事業推進部にてマーケティング施策や広報施設運営のほか、人材育成を担当。


川崎重工業がロボットを公開する理由

人手不足が叫ばれる現代社会。今は多くの製品が、産業用ロボットの手を借りながら生産されています。

例えば自動車メーカーや食品メーカーの工場では、多くの産業用ロボットが稼働しています。しかし、産業用ロボットを含めた生産施設は、きわめて企業秘密が多いところ。学校の社会科見学以外で工場を見学するのはなかなかハードルが高いのが現状で、産業用ロボットがせっせと働いている場面を見られる場所は、思った以上にありません。

そんな産業用ロボットが身近に見られる場所は、実は東京・お台場にありました。それが川崎重工業(以下、川崎重工)のショールーム「Kawasaki Robostage」です。

川崎重工は、主に航空機や船、鉄道車両などの大きな機械を作っている会社です。これらは一般にはなじみが薄いものの、ライムグリーンに塗られたオートバイならご存じの方も多いかもしれません。そんな川崎重工は、今から50年以上前に、産業用ロボットの国産化を初めて実現させた会社でもあるのです。

川崎重工は、お台場のKawasaki Robostageのほかにも、羽田空港付近の複合施設である「HANEDA INNOVATIN CITY」内に「Future Lab HANEDA(フューチャーラボ・ハネダ)」を運営しています。こちらは、工場外で働くソーシャルロボット「Nyokkey(ニョッキー)」の実証実験の場。レストランにて、おいしい料理を作ったり提供したりするロボットの姿を見ることができるのだとか。

しかしなぜ、ロボットを都内の一等地で、わざわざ一般向けに見せる必要があるのでしょうか?

その疑問に答えてくれたのが、今回インタビューした合田さん。川崎重工の両施設の企画運営を担当し、ロボットのプロモーションを行う仕事をしています。

「当社ロボット事業部のトップだった橋本(康彦氏、2020年から社長就任)が、『ロボットという製品は、近い将来、人々の近くで働くようになる時代が来る。だから、受注した製品をただ売るだけではなく、社会の困りごとを解決するために技術を使おう。一般の方々や子どもにロボットについてもっと知ってもらえるような取り組みをしよう』と。それで2016年にKawasaki Robostageがオープンしました。この前例のない施設の企画運営を担う人材として、私が採用されたというわけです。だから、エンジニアが多い川崎重工としては、ちょっと異色のタイプなんですよね(笑)」

ロボットと共生する社会を目指して

合田さんは、かつて自動車メーカー系のショールームで、企画運営の仕事をしていました。

「1~2人乗りの小型電動自動車、いわゆるパーソナルモビリティの体験試乗などに携わっていました。自動車メーカーのロボット部門が開発している乗り物を一般の方々に乗ってもらって、そのデータを集めて開発側にフィードバックするといった仕事ですね」

合田さんは大学までは理系だったものの、ロボットとは無縁の土木技術を専攻したのだそう。しかし在学中に違和感を抱き、方向性を大幅転換。ソフトウェア系のベンチャー企業に営業職として入社し、米国から世界への進出が始まったばかりの商材のプロモーションを担当しました。根底に「未来のために新しいものを世に広めていきたい」という強い思いがあるため、その後、パーソナルモビリティや産業用ロボットへ関心を持ったのも当然といえるのかもしれません。

現在はマーケティング領域でロボットに携わる合田さん。とはいえ、施設の運営は試行錯誤の連続のようです。

「川崎重工がソーシャルロボットを作るきっかけは、深刻な状況にある国内の労働人口減少に対し、これまでの製造業だけでなく、さまざまな分野でもロボット導入を進めることが求められている――という社会課題解決の提供でした。しかし、働く環境も作業内容も厳格に規格化されている工場内の産業用ロボットとは違い、“工場外”のロボット開発についてはまだノウハウがない。だから、レストランを作ってそこでロボットを実際に動かしながら開発していこう、となったのですが――いざやってみると、めちゃくちゃ大変でした」

レストランの中でロボットが動き回る際には、さまざまな障害物があります。誤解を恐れずに言うと、お客さんやそこで働くアルバイト従業員も「ロボットにとって予測できない動きをする障害物」に含まれるのです。持ち場を一切離れず決められた動作を行う産業用ロボットとは違い、さまざまな面でハードルが非常に高くなったと合田さんは言います。

「例えば、レトルトのカレーをカップに注ぐ動作をしますよね。人間なら湯煎したレトルトパウチの形が多少違ったところで、問題なく注げる。でもロボットは同じ動きしかできないので、ちょっと具材が大きかったり偏っていたりするだけで、カップからボロッとこぼすんです(苦笑)。それはロボット側が進化すれば、AIで認識できるかもしれないですけれど、すると今度はコストが全然見合わなくなってしまう。その意味で、ロボットは決められたタスクを正確にこなす存在でいて、かたや人間は臨機応変に対応できる存在というように、うまく組み合わせていくのがいいと思っています」

コンビニでアルバイトをした経験から「あんなマルチタスクをロボット1体で担うのはとても無理」だと語る合田さん。

「ロボットをよく知らない大人ほど『人間ひとりに対して、ロボット1体で補完できるでしょ』と考えがちですが、それはやはり難しい。だから社会自体が現状のロボットを受け入れつつ、ロボットと分担して共生するように変わっていかないと、人手不足を補うレベルにはなかなか達しないんじゃないかなと」

だからこそ、今のロボットにできることをもっと知ってほしいと願っているわけですが、さまざまな教材などでロボットに慣れ親しんでいる最近の子どもは、「過度な期待をしていない」のだとか。

「Future Lab HANEDAに来るお子さんを見ていて印象的だったのは、ロボットが料理を配膳すると、それに対して自発的に『ありがとう!』とお礼を言うなど、ごく自然体で受け入れているんですよね。大人の方がむしろ話を止めて、緊張して話さなくなっています(笑)」

私たち大人は、幼い頃に見たアニメや映画の影響で、ロボットに過度な期待を抱き、つい厳しくチェックしてしまう傾向があります。一方で、生まれた頃からコミュニケーションロボットやお掃除ロボットがある世界に生まれた子どもたちの方が、案外“ロボットの現在地”を冷静に捉えているのかもしれません。

社会に必要なロボットの人材育成もまた重要

これまで、人が取り組むには辛く大変な作業を支援するのが、ロボットのひとつの役割だったと語る合田さん。そのひとつに、検査機器メーカー・シスメックスと組んで開発した国内初の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」があります。

「hinotoriは難しい手術である腹腔鏡下手術でも大きく切開しないので、傷口を小さくできます。だから患者さんの負担も少なく、入院期間が短くなって、費用も節約できるようになる。また、手術の時間が短くできるからお医者さんも楽になるんです」

ロボットによる遠隔手術の研究も進んでおり、将来的には都市部の大学病院でしか受けられない高度な技術を必要とする手術も、離島や山間部で受けられるかもしれないのだとか。さらにコロナ禍の時には、PCR検査をロボットで自動化して、ヒューマンエラーをできる限りなくすようにしたそう。

また、人が行う危険な作業を代わりに行えるのも、ロボットならではといえるでしょう

「金属を製造するには、材料を誘導炉で何千度という高温で溶かして、それを型に流し込むのですが、やがて溶鉱炉にアクのような不純物が浮き出てくるんです。金属の質が悪くならないようにそれをすくい上げるのですが、その作業をこれまでは人間の手で行っていました。今は、その危険な作業を遠隔操作で行える産業用ロボットを製品化しています」

そんな川崎重工のロボット事業は、前述のように次のフェーズに移行しています。今後は産業用ロボットと医療用ロボットのほか、ソーシャルロボットのように人のすぐ近くの生活エリアで、人の課題を解決するのです。

しかし、そのロボットを担う人材の育成に、合田さんは危機感を募らせています。

「さまざまなプログラミング教室やロボコンの大会などを見させてもらっていますが、日本はまだまだだと感じました。例えば、あるアメリカのロボコン大会では、参加する人の比率も男女半々ぐらいでしたし、あくまでロボットは題材で、チームビルディングして、最終的に『私たちはこんなロボットを作りました』といったプレゼンテーションをしていた。まるでビジネスコンテストのようでした。ほかにも、世界中から集まってくる別の国の代表の子どもたちが当日いきなりマッチングされて『3時間後の発表までにこのルールに則って調べてください』と言われる。お互いに違う言語だけれど、一生懸命話し合う…そんな大会もあるそうです」

欧米の大会ではGoogleのようなIT企業がスポンサーをしたり、教材やツールを無償提供したりしているそう。子どもに対する投資が桁違いなのだそうです。

川崎重工はKawasaki Robostageのようなショールームを通じ、一般の人がロボットと触れ合う機会を創出しています。実際のところ、予約して見学していくツアー客は、日本各地からの修学旅行生を除けば、アジア各国からの来訪者が多いのだとか。それでも合田さんは、ロボットの魅力を伝える“エバンジェリスト(伝道師)”として、このプロモーション活動に強い意義を感じ、その貢献の大切さを信じています

「おかげさまで、最近は地方自治体から『地域の子どもにロボットについて教えるイベントを行いたい』という相談を受けるといったように、とにかくさまざまな依頼をいただいています。そういえば、以前沖縄からおばあちゃんが住む東京に来た子が、たまたまお台場に立ち寄ってこのショールームに来てくれたんです。そこでロボットに興味を持って、沖縄でロボット教室に通うようになったそう。その後、東京で行われる全国大会に出場するとのことで、再会したことがありました」

そんなエピソードを明かしながら、この施設が誰かのタッチポイントになればいいなぁ、と合田さんは微笑みました。

エンジニアだけがロボットの仕事じゃない

ロボットをマーケティングやプロモーションの立場から見守る合田さんにとって、ロボットに関わる仕事とは?

「先日もプログラミング大会の審査員をしていたとき、ロボットが好きなお子さんに『将来ロボットを作りたいんですが、どうしたらいいですか?』と聞かれました。そもそも、ロボットに関わる仕事はたくさんある。確かにロボットは、機械や電気、ソフトウェアだけでなく、材料や力学など理系分野のプロが集まって設計をしています。でもエンジニアだけではなくて、私のようなマーケティングや商品企画、営業、部品調達でも関われるし、国際的な製品なので外国語を武器にしてもいい。工場に導入した産業用ロボットを使いこなしてもらうために、人を教育するロボットの先生みたいな仕事もありますね。とにかく、自分の“得意”があれば、ロボットに関わるチャンスはいくらでもあると思います

ロボットに関わる仕事に就くためには、無料体験できる教室や教材・ツールなどがあふれている現代で、とにかくいろいろなことに挑戦してみて、その中で自分の好きなことや得意なことをひとつ突き詰めていくこと。その上で「ひとりでは何もできない」ことを認識しつつ、何かと何かを組み合わせて新しいアイディアが生まれないかという発想を持ってほしい――合田さんはそう言います。

例に挙げてくれたのが、産業用ロボットの生産施設への導入。産業用ロボットは主にアーム一本で動きますが、アームひとつあっても何もできません。大切なのはそれを含めた全体の設計です。

「ロボットアームが何の部品を掴んで、どんな動きをさせるのかを考えると、そもそも上流から下流に流れるベルトコンベアなど、周辺のさまざまな機材がなくてはいけない。それらを組み合わせるのはシステムインテグレーター(SIer)の仕事です。このSIerのような人は、これからの時代、ものすごく必要になってきます。この分野では欧米だけでなくインドなどアジアも進んでいます。Kawasaki Robostageに見学に来られるインドの方も多い。Slerの分野がうまくいかないと、ロボットはうまく社会実装されていかないので」

そこでふと彼が口にした、こんな言葉が印象的でした。

「突き詰めるだけならAIの方が得意でしょうね。でも、組み合わせられるのは人間ならではだし、それはビジネスにも直結していくことなのですから

川崎重工グループの新卒採用では、設計エンジニアだけでなく、ロボットのメンテナンス専門職やロボットを販売する商社の営業職も採用しています。かつてものづくり大国だった日本のリードは失われつつありますが、ロボットは海外に対してまだリードしている分野。文系・理系を問わず、ロボットを大好きな若い人材が、この業界を、そしてこの社会を支えてくれることを、合田さんは強く願っています

取材・執筆:スギウラトモキ

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