地方移住のICT教育先駆者が語る「ICT教育がもたらすメリット」
2020/07/22
コロナ禍により、教育現場でもICT教育・オンライン活用について、ニュースやメディアでさまざまな議論を目にする機会が増え、一気に注目が集まりました。今回の教訓を生かして多くの学校が再開後もオンラインを活用し、子どもたちも日常的に動画やSNSを活用することが増えています。また、若者の東京一極集中を防ぐため、地方国立大学の専門人材の育成強化などを目指す政府の動きもでてきており、新型コロナウイルス対策で在宅勤務や移住推進など、社会全体でより一層のICT化が必至となっています。
コロナによって一気に進んだICT化ですが、2014年から地方に移住することで、「公教育のICT教育を推進」しつつ、自らインターネット予備校の人気講師としても活躍されている大辻雄介氏に、「ICT教育が子どもたちにもたらす成果」と「保護者が押さえるポイント」について、地方での事例をもとにお話ししていただきました。
お話を伺った人
大辻 雄介 氏
慶應大学経済学部出身。総務省地域情報化アドバイザー・リクルート『スタディサプリ』講師。
大手進学塾・予備校にて算数/数学を指導したのち、大手通信教育会社にてICTを活用した教育ビジネスの新規事業開発などを担当。遠隔授業サービス等を新規開発。
2014年に隠岐に移住し、島前高校魅力化プロジェクトに参画し、公立塾のマネジメントを担当する。離島中山間の小規模校高校の実情を知り、より魅力的な「学校づくり」「教育環境づくり」を推進する。
2017年より高知県にて嶺北高校魅力化プロジェクトを新たに興し、現在も牽引している。
今年度より北海道大空高校魅力化振興監も兼務。
―大辻さんは2014年から島根県隠岐の島に移住をしてICT教育を推進してきたそうですが、なぜ移住をしようと思われたのですか?
前職の大手通信教育企業に勤めていたときに、社内で遠隔授業のICT教育サービスを立ち上げて、新規事業として黒字化まで拡大することができました。次なる新天地を考えたいと思っていた折に、縁あって足を運んだ隠岐で若い世代の人たちと役場の人たちが一緒に頑張っている姿に刺激を受けて。そのとき、「現場から学ぶことの方が多いのでは」と思ったんですね。そこで心機一転、独立して隠岐へ移住することを決意しました。
―具体的にどのようなことに刺激を受けられたのでしょうか。
僕が移住した隠岐島前地域は、西ノ島町・海士町・知夫村という3つの島から構成される地域です。島前地域は本土から60km離れており、フェリーで3時間もかかります。本土に出向くことは大変なので、海士町の人たちはオンラインでの会議を使いこなしていたんですね。2014年の話ですよ。それを見て、実は地方のほうがICT化が進んでいるんじゃないかと思ったんです。
高校も3つの島のなかでひとつしかないため、生徒は船に乗って登校します。天候が悪く船が出せないと学校が休校になるなど学習面においても不利な地域でした。私は中学生に指導するために、他の島に船で出向いて指導していたのですが、それも欠航すると授業ができないんですね。特に冬場は日本海が荒れやすい…。そんな時期、高校受験を控えた生徒たちが、船が止まってしまうことが多々あり、困っているという話でした。役場の人たちのオンライン会議のように、教育現場でもICTを活用して島々をつなげれば、生徒たちが天候に左右されることなく授業が受けられるのではないかと思い、その実現に貢献したいと思いました。教育改革の動きもそうですが、地方の小規模校のほうが人数が少ない分、元気なことが多いですね。
―なるほど。そうだったんですね!たしかに地方のほうがオンラインの需要が大きいかもしれませんね。
そうですね。「船で行けないからまた別の日に」とするよりも、「必ず毎週ICTで」というほうが学習効果は高いです。教育委員会の方々にご協力いただき2014年の冬から3つの島をオンラインでつなぐ取り組みを始めました。このとき特に重視したのが、「安定的に配信する」こと。安定的な回線がつながるように整備することから始めました。
そしてオンラインで授業を始めてみると、面白いことに気付きました。これまでひとつの島でその学校の中で授業をしているときには、1学年10~20人ほどの少人数かつ、子どもの時から顔なじみのメンバーで、クラスのなかでの個々の役割やキャラがほとんど決まってきていたのが、オンラインによって3つの島にいる子供たちがミックスして授業を受けることで、新しいメンバーが増えて、それぞれの子どもたちが刺激を受け合うようになったんですね。自分は島でいちばんおもしろいと思っていたけど、上がいた、とか(笑)。
子どもたちはオンライン上の「チャット」で答えを送るのでクラスで手を挙げて発言するよりも回答しやすく、子どもたち同士で一番早い回答を競い合うこともありました。また、場合によっては島のなかで中学3年生が1人という年もあったのですが、オンラインで他島とつながることによって仲間が増えて、高校受験のモチベーションが高まったという声もありました。
―すごい効果ですね。小規模でこれだけの効果が出ているということは、さまざまなシーンで有効活用できそうです。
このときに僕自身、成功事例を多く見ることができ、さまざまな地域での普及活動へ広げることができています。僕は今、高知県に移住して高校のプロジェクトを支援しながら北海道などさまざまな地域でのICT教育を推進しています。
―さまざまな事例を多くご覧になり、自身もインターネットを使った授業で実際に人気講師としても活躍されている大辻さん。ぜひ遠隔授業のコツやノウハウを教えてください。
まず、遠隔授業には大きく3つの分類があります。
① 録画
② ライブ配信で生徒が複数の場合
③ ライブ配信で生徒が1人の場合
制作する際にもさまざまなコツやノウハウがありますが、講師という立場のときに心がけているのは「手短にポイントだけ押さえる」「カメラ目線で背中をなるべく向けない」「話し方に抑揚をつける」「返事が返ってこないのを前提で問いかける」などなどですね。オンラインでも、話し手が背中を向けている間に生徒がよそ見をするという面白いデータがあります。
―なるほど、保護者としてはそのポイントがわかるとお子さまに合ったサービスを選びやすくなりますね。では実際にオンライン授業を受ける受講者はどのような心構えや注意点が必要でしょうか。
オンラインで受講する場合、「計画性」や「主体性」が非常に大切になってきます。まずは自分や家族で計画を立てることが大切だと思います。私はこう進める、という計画をシェアすることでモチベーションを高く持つことができるのではないでしょうか。
逆に言うと、学校教育は先生に決められた課題を与えられることで受動的になるので、自分や家族で何かを決めることはないですよね。オンラインは、お子さまの主体性を育むよい機会になると思います。
今は動画配信サービスなどでなんでも見ることができますし、小学生が高校の数学までいってしまってもいい。自分の好きなことを伸ばす環境が揃っていると思います。
好きなことを伸ばして、そういう人たちとネットで組んでプロジェクトを進めることだってできます。そうした「主体性がこれからの時代を生きる人材を育む」のではないでしょうか。
―最後に、大辻さんがさまざまな教育現場をご覧になって、「現場は千差万別ある」とのことですが、その中から「進学先の学校選び」にはどのような観点が必要だと思われるでしょうか。
そうですね。一定講義型の授業は一方向で受動的です。それよりも、教室でも「双方向の授業を推進している学校」がいいのではないでしょうか。単純に情報を与えるだけではなくて、たくさんの体験をさせてくれる学校が、生徒の主体性を育むと感じています。体験のなかの学びを大切にすることで、社会で活躍できる「しなやかな強さ」を持つレジリエンスな大人へと成長するのではと実感しました。そういった双方向型の授業は、ICTでも代替される時代にきていると思います。
今回のお話では、ICT教育にどのようなメリットがあるのか、またこれからの時代を生きるお子さまを持つ保護者が押さえておくべきポイントは何か、などを実際の事例をもとに伺うことができました。
文部科学省が早ければ2022年ごろには、現在の高校普通科を再編し、大学や国際機関との連携体制をとる「学際融合(仮称)」学科、自治体や地元企業との協力体制や高校と地域をつなぐコーディネーターを配置して、地域社会の課題に取り組む「地域探究(仮称)」学科を検討しているそうです。このことからも、ますます教科の枠を超えた学びに取り組む教育へと変わっていくことが推測されます。
コロナを契機としてさまざまなことが変わりつつある今、子どもたちの学びを止めないICT教育を、家庭でも活用してみてはいかがでしょうか。
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