子どもたちに本気で体験してほしい「課題研究・解決スタディツアー企画」【阪急交通社インタビュー】|こども教育総合研究所
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子どもたちに本気で体験してほしい「課題研究・解決スタディツアー企画」【阪急交通社インタビュー】

2020/01/29

バリ島といえば世界的に有名なリゾート地ですが、その裏には厳しい格差やゴミ問題など、さまざまな社会問題が存在しています。株式会社 阪急交通社が企画した「格差と環境問題をバリ島で考えてみる 課題探究・解決スタディツアー7日間」は、実際に中高生たちがバリ島へ行き、社会課題を抱えるリアルな現場を体感する本気の体験学習。バリ島の課題解決を目指して活動する企業やNGOの現場を見学し、参加した中高生たちが解決したい課題とその解決策への考えをまとめてプレゼンテーションを実施するまでの壮大なツアー内容となっています。

国連が提唱するSDGs(持続可能な開発のための目標)のゴール目標に沿って行われるこのツアーで中学生や高校生はどのように取り組むのでしょうか。ツアーを企画された阪急交通社の法人団体営業本部東日本営業部長・岸本氏と同営業部教育旅行課長・濱崎氏に、本企画に対する想いや魅力について語っていただきました。


(左)(株)阪急交通社 法人団体営業本部東日本営業部長 岸本氏/(右)同営業部教育旅行課長 濱崎氏

SDGsの取り組みを、しかもバリ島で実施される企画に至った経緯をお聞かせください。

(岸本)SDGsの取り組みは教育現場ではもちろん、企業でもCSRの一環として取り組みを始めるところが多くなってきています。教育現場では、SDGsをテーマにした取り組みを何かしていかなければいけない、生徒たちに学ばせ、気づかせることをやっていかなければいけないという先生たちの強い思いはあるのですが、先生たちも通常の業務の中であまり時間が取れず、なかなか取り組めないという声を多く耳にしました。それならば、旅行会社の目線ではありますが、SDGsをテーマにしたパッケージ商品をまず形にしてみようと考えました。

SDGsの17テーマの中にある「貧困問題や環境問題」なら身の周りのニュースでよく取り上げられるため、中学生・高校生でも取り組みやすいのではと想定し、今回のツアーテーマに設定しました。貧困問題となると日本から見た場合、フィリピンやカンボジアといったいわゆる開発途上国がフォーカスされがちですが、インドネシアもまだまだ開発途上な部分があるとはいえ、バリ島だけは世界各国から観光客が集まるインドネシアの中でも比較的裕福な場所です。有名なリゾート地なので潤っているイメージがありますが、ここでも格差が拡がり貧困問題や環境問題が昨今、非常に問題になってきているという現実があります。

バリ島の貧困問題に関しては日本で取り上げられるケースは非常に少なく、メデイア上に多少情報があるにしてもフィリピン・ミャンマー・カンボジアと言ったところと比較すると圧倒的に情報量は少ないですし、自ら情報を取りにいかない限り、このような現実があることをご存知の方は少ないのではないでしょうか?今回のツアーは、こういった実際に現場に行ってみないと分からない「光と影の部分」に気づいてもらうことを目的としています。

ただ、この問題・課題解決は、中高生がゼロから調べて取り組むことは当然難しいわけです。彼ら、彼女たちが考えることアイデアを、現地の起業家や支援団体にその一部でも取り込んでもらえることが出来れば一番だと思いますが、今回のツアーの目的は課題解決策を考える思考力や、自分の考えを自分の言葉でプレゼンしたり、ただ単にメディアから入ってくる情報をすぐ鵜呑みのするのでなく、その情報の裏側にもほかの事実が隠れていたり、自分たちが気づかなかった事実があるのではないかと考えること、総じて情報収集リテラシーを学んでほしいという点や与えられたモノだけを利用するのではなく、自らが取り組みをしようとする主体性や自主性を重視しています。

こういった学びは10年後、15年後、社会の最前線に立った時に必要とされるであろう「グローバル社会を生きる力」「必要とされるスキル」になってくるのではないかと思っています。

―ツアーの行程でいくつか視察する場所があるようですね。

(濱崎)まず、行程の3日目でグリーンスクール(注1)を訪問します。グリーンスクールはインターナショナルスクールと現地校をミックスさせたようなオルタナティブ教育(注2)を取り入れている学校です。

グリーンスクールの生徒の7~8割は欧米などの国から、ご家族ごとバリ島に移住し通学されているケースが多いようです。各国から来ている生徒とインドネシア現地の生徒がミックスされているため、とてもグローバルな環境です。幼稚園から高校3年生のカテゴリーがあるのですが、基本的には小学生から大学のゼミのような授業形態を取っているそうです。教育には「担任の先生」がいるのではなく、自分たちが学ぶ科目の先生のところにいきます。小学3年生ぐらいになると自分たちでプロジェクトを立ち上げて、そのプロジェクトに対して問題を抽出し、それに対する取り組みをどうしたらいいかということを考えるそうです。

日本の学校では今、外国籍の児童が増えてきていますが、多様性に関してはまだまだ目をつぶってしまっているところがあるのではないでしょうか? グリーンスクールは先にお伝えした通り、様々なバックグラウンドを持った生徒が在籍しています。多様な価値観や文化的背景をもった生徒が一緒に学んだり生活したりしているということを、若いうちに見て感じていただきたいと思いツアーの一部に入れています。今の中高生たちが社会に出るときは、今より更に外国人との共存共生が進んでいますからね。

(注1)「持続可能な世界を創る未来のリーダーを育成する」ことを目指し、ジョン・ハーディ氏によって2009年に設立されたインターナショナルスクール。環境教育のパイオニアとして知られるグリーンスクールは、バリ島の自然に囲まれた校舎に世界中から生徒が集まる。
(注2)「自主性を尊重する教育」のことで、画一的な教育ではなく、個人を尊重し子ども自身の主体的な行動を促す教育法。

続いて4日目にはバリ島の現状を実際に体験します。先ほども申し上げたとおり、「光の部分」は、インターネットを調べればすぐ、バリ島のきれいなビーチ、美味しそうな食べ物や踊りの写真などが出てきますが、一方で、なかなかメディア上に出てこない「影の部分」が潜んでいるというところをしっかりと体感してほしいと思っています。こんなにキラキラしたバリ島という有名なリゾートの裏にはこんな悲惨な状況があるんだということをしっかり思って体験していただきたい。

出発前に情報のインプット、それからマインドセッティングで事前学習して現地に行き、ツアーの最後には現地の起業家や支援団体の方々に対して、プレゼンテーションをしてもらうのですが、普通のツアーは現地でプレゼンをして、フィードバックをもらって、お疲れさまでした、で終わるケースが多いと思います。しかしこのツアーは帰国したあとに、現地からもらったフィードバックを精査し現地で実施したプレゼンをさらにブラッシュアップさせて完成。最終型を現地に提出し完了となります。ただ単に「7日間バリに行って、いろいろなことを見てきました。体験してきました。かわいそうでした。ゴミ山臭かったです」で終わりにしたくないのです。子どもたちに待ち受ける予測不可能な未来に向けたアクションプランまでも作ってもらおうというところまでセットアップしました。

―今のお話ですと、事前学習のところをしっかりやっておかないと、いきなり現地で学ぶだけでは難しいのではないでしょうか。

(岸本)おっしゃるとおりです。

事前学習は3回予定していて、バリ島の表の部分と裏の部分、宗教的な背景などもある程度インプットします。事前学習をしていても、行ってみて初めて分かることや感じることなどたくさん出てくると思います。「現地の人の話を聞いた」「そうなんだ、自分たちが考えたことと全然違ったね」とか。それはそれでいい体験になるのだと思います。

インターネットやSNSで情報が手軽に得られる時代になりました。手軽に入ってくる情報だけを信じ切っていると、実際「あれれ」となるケースは多いと思うので、情報収集をする中で情報は一つの面ではなく、多面的、多角的に見ていかないと本当の事実は分からないとうことをきちんと理解していくことが、子どもたちだけではなく、大人にとっても大切なことだと思います。

※写真はイメージです

―事前学習のときにはどなたかに教えていただけるのでしょうか。

(濱崎)もちろんです。教育プロバイダーに協力してもらっていますが、その方たちが初回と3回目に、今回の渡航目的・意義、そしてバリの社会問題についてきちんと事前学習をしてくれます。それプラス、私たち阪急交通社もインドネシア・バリ島の全般的な知識のインプットをお手伝いします。

また2回目は、日本にいる留学生に来ていただく予定です。日本人から見たインドネシア・バリ島の見え方と、東南アジアから来ている留学生たちから見たインドネシア・バリ島の見え方は違うはずですよね。彼らに見えているエリアのことについて英語で話をしてもらうとか、逆に、彼らが留学生として日本について感じている、日本の環境問題や貧困問題についてディスカッションしてもらいながら、多様性も含めつつ理解してもらう流れで考えています。

―すごいプログラムですね。留学生との交流も貴重な体験になりますね。事前学習からお子さま一人で参加されるとのことですが、参加される生徒さんや保護者の方のメッセージをお願いします。

(岸本)中学高校を卒業し、大学を卒業して社会に出ていくという人生設計であっても、当然将来がわかる人はいませんよね。ただ、われわれが育ったころと現代の子どもたちの環境で大きく異なるのは、本当にますます先が読めない時代になったと感じます。AI(人工知能)という言葉が普通に使われるようになった今、人間の役割がどう変化しているのか?2~3年後のことでさえ分からない環境の中で、今できることを今のうちに経験して蓄積しておかないと、5年後、10年後社会に出たときに恐らく対応できないのではないかと危惧しています。

大学生くらいになってある程度人格形成もされてきた頃に、こういうことを学んでいきなさい、こういう要素を身につけていきましょうと言ってもなかなか難しいのではないでしょうか。ですので、中高生(15~17歳)くらいまでのうちにコミュニケーションツールとして語学力の重要性に気づき、その語学力を使いなが多くの経験を積み、日本はこんなに恵まれているということに気づいて欲しいですし、本ツアーを通じて日本の良さを改めて気づく機会になればと願っています。 

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執筆:ヒューマンアカデミーこども教育総合研究所 編集部

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