“中二マインド”を胸に世界へ挑め。Highlanders代表・増岡宏哉さんが次世代に伝えたい思い
2026/02/26
日本がヒューマノイドロボット大国だったのは、もはや遠い昔のこと。すでにはるか先を行く中国をキャッチアップするのは、なかなか大変です。
それでも国産ロボットの開発に使命感を抱き、挑戦しつづけているのがHighlanders(ハイランダーズ)なるロボットベンチャー。この会社を立ち上げた増岡宏哉さんが大切にしている思い、そしてみずからの経験から次世代に伝えたいこととは…?
株式会社Highlanders代表取締役/東北大学特任教授
増岡宏哉(ますおか・ひろや)氏
1994年大阪府生まれ。大阪大学基礎工学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修了。日本学術振興会特別研究員。2023年に東大発ロボットベンチャーのハイランダーズを設立。2026年からは東北大学共創戦略センター特任教授(客員)も兼任する。
「クマと戦ってください!」と望まれたロボット
埼玉県・所沢市にあるハイランダーズ開発拠点の一画。現れたのは無骨ながらも、どこか愛嬌のある四足歩行ロボットでした。増岡さんらが開発するこの四足歩行ロボット「HLQ Pro」は、もともと災害時にがれきの下にいる人の捜索など、過酷な現場での使用を想定しているのだそう。
「ハードな現場に耐えられるよう、とにかく丈夫に作ろう、蹴飛ばしても起き上がれるようなタフなロボットを作ろうと。ただ…ロボットの様子をSNSに投稿したところ、『クマと戦ってください』といった要望が週に1、2件、コンスタントに来るようになったんです」と増岡さん。
そう、昨年秋から日本中を騒がせたクマ被害。撃退するすべを持たず、多くの市民が困っている中、ハイランダーズがつくっていた頑丈そうな四足歩行ロボットに思いがけずスポットライトが当たったのです。「これならクマと張り合えそう…!」と。
「『人々を苦痛から解放する』のが、このロボットの大元のコンセプトでした。だから、クマ被害から人々を助けるというのは、自分たちのビジョンと通ずるものがあります。本当にそれができれば、開発者冥利に尽きますよね。会社としても望んでいたカタチなので…」と彼は嬉しそうに語ります。
かくして2025年12月には、「KUMAKARA MAMORU」プロジェクトが始動。これは「HLQ Pro」が金太郎のごとくクマと取っ組み合う…わけではなく、大型スピーカーや強力フラッシュライトを搭載し、視覚・聴覚の両面でクマを人里から山林へと追い払う。つまり戦闘用ではなく、「人間のナワバリだぞ」と知らせる警告用です。
ちなみに増岡さんによれば、四足歩行のロボットと、二本足のヒューマイドロボットとのベースとなる技術はほとんど同じなんだとか。しかしヒューマノイドロボットの市場は、現時点ではほぼ存在しないそうで…。
「市場があったとしても、アミューズメント用途のように限定的な需要にとどまります。一方で、四足歩行ロボットは、すでに市場が芽生えはじめています。例えばインフラ設備や造船所などの巡視点検やパトロールで」と増岡さん。
ここで彼は、「でもね、そういった現場では…単なる巡視点検やパトロールをすればいいわけではないんですよ」とやや声のトーンを落としました。
「インフラ設備や工場には、国家としての機密情報がそこかしこに存在する。だから『日本製の信頼できるロボットを使いたい』と考えている方が多いんですよね。サイバーセキュリティ上のリスクを回避する必要があり、できる限り、国産ロボットを入れたいという高いニーズは確かにある。そのようなニーズを踏まえて、四足歩行ロボットの開発からスタートしています。やがてヒューマノイドロボットの市場が形成されたら、その生産ラインを転用して…」
増岡さんが目指す未来――それは人間とロボットが棲み分けながら、共生する明るい社会なんですね…。
そう思っていたら、「世界の人件費は、まるっと人間からロボットに置き換わります」などとのたまうではありませんか。では、ロボットエンジニアの未来はどうなってしまうのでしょう…?
「ロボットがロボットを作る時代」の到来
「2030年頃には、人間が1時間で行う仕事を、AIロボットが5~10分で片付けるようになる。これは、かなり現実味があるシナリオだと僕は考えています」と衝撃的なことを述べた増岡さん。これは昨今話題の「フィジカルAI」のすさまじい発展が理由です。
フィジカルAIとは、ロボットという物理的な身体を持ったAIが、カメラやセンサーなどを通じて現実世界を認識し、自分で考えて動けるようになること。これにより、AIは人間の持つ知性以上の性能で、ロボットの物理的な身体を巧みに操れるように。その進化は驚くべき速度なんだとか…。
ハイランダーズで開発中のロボットたちにも当然、最新の「フィジカルAI」が搭載されています。現在は人間がリーダーフォロワー方式(遠隔操作)で教え込んだ動きをAIが学習し、やがては自律的に判断して動くようになると増岡さんは話します。
「転ばされながら学んだ四足歩行ロボットは、いずれ転ばずに歩く方法を獲得します。人型ロボットも、今後は人間の『そのモノを取って』といった抽象的な指示だけで、大きさや位置が違う対象物でも判断して動けるようになります」
最終的には、AIロボットがAIロボットをつくる――そんな時代が到来し、「本音ベースで申し上げますが、人間のロボットエンジニアは10年後にはおそらく不要になる」と真剣なまなざしで言葉をつむぐ増岡さん。
でも、彼はロボットづくりを否定しているわけではありません。ロボットエンジニアのみを出口にしてロボットをつくるのは損だ、と考えているのです。
「ロボットをつくって得られる経験値は、本当に多い。ある意味で人生観も大きく変わるぐらい、いろいろな示唆に富んでいます。役立つ場所もたくさんある。それだけやる価値があることだと思っています」
今のロボットネイティブな先進国の子どもたちには、その特権を活かしてできる限り新しいテクノロジーに触れてほしい。日頃からロボットとの距離感を詰めてほしい。そう訴える彼もまた、これまで人間が生み出したテクノロジーにまみれて育ったそうで――。
2億円分のゴミで身に付けられる力
増岡さんの原点――それは、幼少期のレゴブロックにあります。特に熱中したのは、レゴにモーターやセンサーを組み合わせて製作する「レゴ マインドストーム」のキットでした。
「レゴって、最初は家やお城を作るところから始まると思うんです。僕も小学生のとき、扉がパタパタ開いたり、風車が回ったりといったギミックにおもしろさを感じていました」
「そのうちにレゴの風車をモーターで回してみたら、もっとおもしろいんじゃないか…?と気づいたんです。突き詰めていこうとした頃に、マインドストームがちょうど発表された。これならモーターもセンサーも使って、もっと複雑なことができるなと。当時はまだロボットの概念も知らなかったのですが、そういったキットを触りはじめたのが、ロボット製作のきっかけです」
宇宙や数学、のちには生命科学にも強い関心があったという増岡さん(大学院はバイオ系の研究科)ですが、やはり没頭したのは、レゴ以来のものづくり。今でもロボットをつくっているとあまり疲労を感じず、24時間でも作業ができる(!)といいます。
そんな彼がモノづくりのスキルを身に付けるのに必要だと強調するのは「モノを壊す経験」の重要性。なんでも増岡さん、これまでの人生でおよそ2億円分ものゴミ(役に立たないもの)を生み出してきた――と笑うほど。
「ぜんぜん胸を張ることではないんですが、本来ゴミじゃなかったたくさんのモノを、ゴミに還してきました(苦笑)。でもその壊した数だけ、良いモノがつくれると思っています」
彼が挙げる「壊すことのメリット」、それは下記の3つです。
【増岡流:モノを壊すことで得られるメリット】
・失敗を恐れないチャレンジ精神
・故障モードの学習
・分解による学び
せっかく多額の資金をかけてつくった貴重なものだから…と委縮したり、失敗を恐れたりしてはいけない。だから「僕たちはロボットにすごい急坂を駆け上がらせたり、坂の上から突き飛ばしたりしています」と真面目に語る増岡さん。なぜならそれで、貴重な経験値を得られるから。そして「ソフトウェアにバグがあっても、ネジが一本緩んでいてもロボットは唐突に故障する」(増岡さん談)ということを真に理解するためには、壊してロボットの急所を学ばなければならないのです。
そして、まっぷたつになるほど壊れて動けなくなったロボットにも、大きな学びが。「自分たちは“司法解剖”と呼んでいるのですが、分解し検分することで得られる情報は、本当に貴重です。先達である中国製ロボットを分解すれば、彼らの設計思想も学べる」のだとか。
分解することで、設計者の思想が自分の血肉となる――実はこれ、増岡さんは小学生の頃から取り組んでいました。
「ブラウン管テレビや電子レンジ、冷蔵庫などの家電をひと通り、分解していましたね。先ほどの2億円分にはカウントしていませんが(笑)。それらを無心で分解していると、優れた技術者が当たり前のように大事にしている考え方が、幼い脳にインプットされていくんです」
ただ、なかには感電により命に関わるような危ない機器もあり、親も最初は猛反対していたそう。でも、「親が寝静まったあと、隠れて分解していた」という彼。でも、そのプロセスこそが子どもの成長に必要ではないか?――と増岡さんは問うのです。
「何にでも協力的な家庭は、たしかに理想かもしれませんね。でも、親がある程度『ダメ』だと反対するからこそ、反抗期も相まってみずからの自主性を保とうと、それを乗り越えていく。そのプロセスは子どもにとって大切なんじゃないかな、と」
失敗は成功の母。だからこそ、かわいい子には旅をさせ、失敗を経験させなければならないのでしょう。
中二病は治してはいけない
そんな増岡さんが本格的にロボットをつくりはじめたのは、大学のロボット製作団体(ロボコン部)に入部したとき。しかしここで、苦難が彼を襲います。
当時、彼が入部したロボコン部で、先輩たちが突如として音信不通に――。ロボット製作の技術もノウハウも途絶える危機的状況に陥ったそうです。急に現れた体育会系でこわいOBたちに詰め寄られる中、当時1年生だった増岡さんはみずから手を挙げ、組織のリーダーに就任しました。
「客観的に見れば、もっとプログラミングができる人がリーダーをやったほうが、成果は出せたのかもしれません。でも、そこで思い切って手を挙げたことで、僕の人生は大きく変わったんだと思います。OBから毎晩朝4時までオンライン通話で『ロボコンの極意』を叩き込まれ、ロボット開発計画や工程管理、組織運営、予算管理について経験することになった。おかげであの決断と経験は血肉となりましたし、ロボット製作の最短ルートを歩めました」
つらい思い出を苦笑しつつ語りながらも、その経験で得たのであろう、自信に満ちた表情を垣間見せる増岡さん。結果として、彼は国内最年少で国の研究費を獲得し、大阪大学総長賞も受賞。その実績を引っさげ、東京大学大学院の有名研究機構に入るといったように、順調にキャリアを切り拓いていくことになります。
こうして取材で面と向かって話す増岡さんは、いたって物腰柔らかで、落ち着いた青年です。しかしX(旧Twitter)でのポストの端々から感じられるのは、強烈な自信。そのギャップについて問うてみると、彼の口から飛び出たワードは“中二病“でした。
「僕よりも勉強できる人なんて掃いて捨てるほどいますし、頭が切れる人もたくさん知っています。でも『自分には才能がある、自分ならやれる』『努力する価値があるし、努力すればなんとかなる』と言い聞かせ、信じ込むところからスタートしないと、他人よりもがんばろうという気は生まれません。メタ認知が発達して『自分なんて…』となるのが一番もったいない。個人的には、著名な研究者や起業家も、ほぼ100%が中二病だと思っています…(笑)」
自分の人生というロールプレイングゲームにおいて、 “さいきょうの主人公”は自分であると信じ抜く。だからこそ、彼は未経験ながらロボコン部のリーダーに名乗り出る決断ができたのかもしれません。
「うまく言えないのですが、迷っているならシンプルに考える――言い換えれば、バカになって『とりあえず何も考えず、自分のやりたいことをやってみよう』でいいと思います。後から考えれば、迷っていた理由なんて大した価値もなく、誤差のようなものです。日本人は目立つことを避けがちだと思いますが、目立たなければ得られないリターンがある。その機会をいかに拾い集めていくかは大切だと思います」
彼はこうも話します。大人目線で中二病をバカにしないほうがいい、と。
「子どもが『自分は本気を出せば、大谷翔平を越えられるんだ!』的なことを言っていても、あまり頭ごなしに否定するのは良くないのかなと。『超えられるんじゃないかな。ただ、今のままだとダメだかもしれないけれど?』ぐらいに留めておくのがいいかもしれませんね」
胸の内に今も“中二マインド”を持っている増岡さんだからこそいえる、重みがある発言なのでした。
中学受験とロボットの両立が“最強”な理由
少年時代、メカの分解に明け暮れた増岡さん自身ですが、彼も中学受験の経験者。
ロボット教室などに熱中する子どもを持つ保護者が直面する「中学受験に集中させるために、辞めさせるべきか」の悩みに対して、増岡さんの回答は実に明確でした。それは「絶対に両立させたほうがいい」――。
「受験勉強という苦痛の時間を一日に何時間も過ごしたあと、ご褒美タイムとしてロボットづくりが待っている。これもう、最高じゃないですか(笑)。クタクタに疲れた身体を、ロボットをつくることで癒やすんです」
別に彼はマゾヒズム的な話をしているのではなく、ちゃんと理由があります。彼が中学受験から得た最大の収穫は、“24時間の燃焼効率”が変わったことなのだとか。
「けっきょく、24時間という全人類平等に与えられた時間を何に注ぐか、なんです。スポーツでもゲームでも勉強でも全力で注力することで、時間あたりの集中力が劇的に高まります。だからロボットだけでもダメだし、受験勉強だけでもダメ。両方やって、その切り替えができる子どもは強くなります。僕はもともと、中学受験には絶対に向いてないタイプでしたが…」
「これは自分の周囲の人も、皆そうです。振り返れば大学や大学院の受験よりも、中学受験のほうがはるかに過酷だったと思いますが、本当にストイックに追い込まれないと、中学受験では生き残れない。でも、そんな経験を経た人は、最難関レベルの中学へ進学してから仮に志望大学には進学できなくても、例えばネットゲーム界で世界一になるといったように、何かしらの分野で高い成果をあげていますね」
中国をはじめとした諸外国と、ヒューマノイドロボット激戦区で接している増岡さん。日本の国力が徐々に衰えていること、そして理不尽で苛烈な競争がなくなってきた日本の牧歌的な教育に危機感を抱いています。
だからこそ、人よりちょっとがんばるだけでちゃんと評価され、そしてがんばる価値のある日本の環境に身を置いていることをもっと感謝すべきだし、それをもっと活かすべき、だと主張するのです。
増岡さんは、幼少期にストラグル(葛藤・苦闘)する経験が、その後の人生のスタンスを決定づけると考えています。
「1日目には、成果が出ない。2日目も成果が出ない。1週間でも1ヶ月でも、成果がまだ出ない。それでも、粘り強く続けられるタイプになるかどうかが大事です」
もう大人になった保護者の方ならご存じでしょう、努力がすぐに報われるとは限らないことを――。
それでも努力しつづける泥臭さや粘り強さを育むためには、保護者自身が「自分の子どもなら大丈夫だ」と信じ抜き、失敗や遠回りを許容する姿勢が求められるのかもしれません。
カップ麺が日本のロボットづくりの活力に
「今、日本で本当にヒューマノイドロボットをつくっている会社は、ほとんどない」と、その現状を憂いている増岡さん。「ロボット業界を志す人は案外少ない」とも――。
そして日本だけでなく世界各国が、中国製ロボットに大きく水をあけられています。彼は「自分たちが日本一になっても、世界にはぜんぜん届かない。その意味でわれわれの競争は、実はまだ始まってすらいない」と現状を冷静に分析します。
でも彼は、期待しています。古来よりモノを大切にしながら、丁寧につくりあげる日本人の精神性に――。そしてそれを活かし、来るべきロボットの爆発的普及に備え、日本において安価で高品質なロボットを大量生産する産業基盤を築いていこうとしているのです。
「日本が次世代のためにやるべき仕事がある。それがニアリーイコールで、ハイランダーズの仕事なんです」と増岡さんは力強く言い切りました。だからこそ応援しているのです、ハードワークを苦ともせず、ロボットづくりに没頭できる次世代を――!
そういえば増岡さんは、まだ30代前半。それでもロボコン出身のロボットづくりの先輩として「子どもがロボットと触れる機会を支援していきたいし、そういった投資ができるおじさんやおじいさんになりたいですね」と未来像を語っていました。
彼はロボコン製作に携わる人たちへ、カップ麺を贈る「麺援」を行っています。ロボット業界を志す人が少ないことを危惧しているからこそ、ロボコンでしゃにむに頑張る次世代に若い頃の自分を重ね、カップ麺で応援したくなるのでしょう。
なお、カップ麺ばかり食べていては健康に良くないのでは…?というツッコミに対しては「気持ちですが、ヘルシーなカップ麺を多めに入れています(笑)」(増岡さん談)。
近い将来、ロボット教室などをきっかけにロボットづくりにのめり込んだあなたのお子さんが、受験勉強を乗り越えた進学先で、さらにロボコンにハマったとき――。ある日、山ほどのカップ麺が届くかもしれません。
そうです。それはきっと、次世代に向けた“ハイランダーズのおじさん“からのささやかなエールです。
取材・執筆:スギウラトモキ
