車から人型へ変形するロボ「ファイバリオン」製作を持続可能に。石田賢司さんの勇気ある選択|こども教育総合研究所
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自分の理想とするロボットをつくる夢。それを叶えるのに必要なのは潤沢な資金?大きなメーカーに所属すること?あるいは自分の会社を立ち上げてビジネスにする――?

どれも正解かもしれませんが、そもそも大事なのは“勇気”なのかもしれません。勇気とは、困難や恐怖に立ち向かう、勇ましい気持ちのこと。
私たちは就職や起業などの手段にばかり目が行き、成功までの確率論が高い道を考えがち。「自分でロボットをつくる」という夢を叶えるためなら、勇気さえあれば、どんな方法を選んだっていいのではないでしょうか

ここでご紹介しましょう。勇気を持ってロボット製作に挑むひとりの男、ブレイブロボティクス代表・石田賢司さんの生きざまを――!

 


株式会社ブレイブロボティクス代表取締役社長/ロボット建造師

石田賢司(いしだ・けんじ)氏

1982年新潟県生まれ。「トランスフォーマー」や「勇者シリーズ」に感化され、14歳で巨大変形合体ロボット建造を志す。独学で開発技術を学び、2002年には小型二足歩行ロボットを開発。2012年には小型変形ロボットを完成させ、その変形の様子を収めた動画は再生回数250万回を突破。2014年に株式会社ブレイブロボティクスを設立後、全高1.3mの変形ロボット「J-deite Quarter」を開発。2024年には一人乗り実物大「パトレイバー」を開発し、現在は「ファイバリオン」を製作中。


あなたは「勇者シリーズ」を知っているか?

「勇者シリーズ」というロボットアニメシリーズがあったことを覚えているのは、1990年代に子ども時代を過ごした人が中心になるかもしれません。

『勇者エクスカイザー』を皮切りに『勇者王ガオガイガー』まで8年ほど続いた、サンライズ製作のこのシリーズ。心を持った勇者ロボが主人公の少年と協力しながら、巨大な悪と戦うのが特徴です。また、パトカーや新幹線など、子どもに身近な乗り物が合体・変形。その勇者ロボのおもちゃがメインスポンサーであるタカラ(現:タカラトミー)から発売されているのも、当時の子どもたちには魅力的に映りました。

石田さんは「世代的に『勇者特急マイトガイン』あたりは一番観ていて、おもちゃも買ってもらいましたね」とこのアニメシリーズに夢中になったひとり。だからこう言うのです、「ロボットは変形する乗り物だと思っているんですよ」と――。

「僕にとってロボットはつくるものではなく、乗るものでした。そんなロボットは、世の中で自分と同じようにテレビアニメに影響を受けた人がたくさんいるだろうし、自分よりも頭の良い人やお金を持っている人がたくさんいるのだから、きっと誰かがつくってくれるだろうと。それを買うなり借りるなりして乗れれば、それでいいや…と10代の頃は思っていました。

ところが、自分が20代ぐらいになっても『あれ、誰もつくらないな…?』と気づいて(笑)。それなら自分でつくろうと、ロボット開発をスタートさせました」

金沢工科大学のロボティクス学科に一期生として入学して以来、20年ほど「人が乗れるように変形するロボット」のことを考え、製作に携わってきたという石田さん。「ロボットを現実化するなら、なぜ『機動戦士ガンダム』ではないのか?」という問いには…。

「ガンダムは自分より少し上の世代なんですが、日本には“ガンダムをつくりたい先輩”がけっこういるので、まぁ、自分はガンダムをやらなくてもいいかな、と…。私はガンダムをリアルタイムで体験していないので、そこにわざわざ競合として入る必要はないだろうと思いました」

かくして、誰も手をつけない“勇者ロボ”のリアル化に向けて動き出した石田さん。
誰もやらないなら、自分がやる。きっかけひとつにも、彼の挑戦心と独立心の強さがにじみ出ています。

勇者ロボが人間のパートナーになるために

勇者ロボがガンダムなどのロボットと違うのは、みずからの意志を持った存在であるということ。なので、劇中でも人間と会話します。石田さんが製作中の勇者ロボ「ファイバリオン」にも当然、しっかりと口が付いている…!

ファイバリオンの口は柔らかい素材でできていて、ちゃんと動くようになっています。5、6年前に開発していたときには『AIで自律的に会話できたらいいけれど、そんなの相当先の話だよね。でもハードウェアだけでも作っておこう』と言っていたけれど、その後のAIの急速な進歩のおかげで『あれ…もうできるじゃん!』となりました

だから、一応は答えを口パクしながら返してくれるようになっています。本当は口をちゃんと動かしたり、もっと表情をつけたりしたいので、今はそのための改良中です」

ちなみにファイバリオン全体のデザインは、プロジェクトの主要メンバーである株式会社ICOMA代表の生駒タカミツさんが手がけています。名前は、同じく勇者シリーズに縁の深いアニメーター・大張正己さん独特のダイナミックな作画を指す用語「バリってる」をイメージして名付けられたそう。

生駒タカミツさんによるファイバリオンのイメージイラスト

勇者ロボはアニメの中で、主人公の子どものパートナーとして共に戦うだけでなく、ときには相談相手になったりします。ということは、会話ができるファイバリオンは、人間の相棒にもなり得る…のでしょうか。

そこでうーん、と悩む石田さん。
「まず現状、AIが進歩してきたとはいえ、AIに人格や人権がないわけですよね。仮にファイバリオンが自分で勝手に歩いて動き出すのは、人間にとってめちゃくちゃ危ない(苦笑)。そもそもロボットが立って屋外を歩くということに対する法律的な前提がないんです。となると、まず人間と同等の権利を与えられることはないだろうと思います。今の法律に当てはめて考えると何になるのかといえば、ペットに近い“物”として扱われるのだろうなと」

工場内の柵に囲まれた中に設置され、決められた作業を行う産業用ロボットの規格で、安全を確保しようとしているファイバリオン。ですが、そもそも産業用ロボットは大出力のため、人間が近づいてはいけない存在であり、うかつに近づくと大きな事故になる。なので、勇者ロボの肩に乗って、他愛のない会話をしてみたくても、現時点のファイバリオンは「パワーがありすぎて危険なため、人間と触れ合えない」のです。

そう、勇者ロボの前に最初に立ちはだかったのは、巨大な悪ではなく、冷酷なまでの現実でした…。

 

勇者を苦しめる巨大で手強いモノ

ファイバリオンは、勇者シリーズに登場する人型ロボットと同様に、人間が実際に乗れる車へと変形する予定です。

ファイバリオンのミニカー形態模型(写真提供:石田さん)

このプロジェクトの究極的な目標――それは、公道を走れる趣味の車(兼人型ロボット)として、市場に受け入れられること。「ミニカー(超小型モビリティ)の規定に頑張って収めようと思っている」と石田さんは言います。
ミニカーについては、よくコンビニや役所などの前に停まっている、一人乗り水色ナンバーの車を思い浮かべてください。そう、その通り。あのサイズ感です。

しかし最大の壁は、世界を脅かす巨大な悪…いえ、法律です。「いやぁ、公道で変形するとですね…」と困った顔で話す石田さん。

車は通常、登録の際に「車体の形状」が定められます。ファイバリオンが公道で立ち上がろうとすると、車のカタチそのものが変化してしまうため、現在の法律上では違法行為とみなされる可能性が高いのです。また、人型状態で全高3メートル近くになるため、人間が乗った状態だと一気に「高所作業(2メートル以上)」に該当してしまうおそれも…。

またアニメの中では、正義の意志を持った車が悪と戦ったり、誰かのピンチを救ったりするために緊急出動しますが、現実世界から見ればこれは「無人の車が勝手に暴走した」状態。これでもし、隣の家のおじいさんが驚いて尻もちをついてケガをするなどの事故を起こした場合、誰の責任になるのか――。

石田さんは「製造元か所有者に対する責任の二択になりそうですよね…。そういうことに目を向けだすと、話が進まなくなるんです」と小さくため息。

ただ、モノをつくる前に悩んでいても仕方がありません。「こういった存在が社会にどう受け入れられるのか、もしくは受け入れられないのか、それを見てみたいですよね」と案外、しれっと語る石田さん。

とはいえ、彼は会社の経営者。ファイバリオンを苦しめる法律の壁にぶち当たりながら、どうビジネスとして成り立たせるのか、さぞ苦労しているのだろうと思いきや――。

いや、これは仲間内の趣味なんです。社会人サークルの活動…というのが事実ですね」

趣味だから継続できるプロジェクト

ファイバリオンの開発を行っている組織、その名も「勇者技術研究所」。石田さんや前述の生駒さん、制御系担当の尾路医科器械株式会社代表の尾路さんを中心に、10名ほどのメンバーがそれぞれの担当領域で開発を進めています。

なぜ起業せず、秘密結社(?)のようなカタチで開発を進めているのか。その理由は、「いきなりビジネスとして始めるには、初期コストと開発年数がかかりすぎる」というシンプルなものでした。

「費用対効果を真面目に計算すると、事業としては非常に難しいことがわかっていて。だから現状では、これがビジネスとして成り立つとは思っていないんですよ。ただ、ある程度まで進められたら、ビジネスになるといいなぁという目論見もなんとなくあるんですけれど。だから、うまくいくかどうかはわからないけれど、まず趣味として始めようということで始めたのが、2019年の頃です」

石田さんが代表を務めるブレイブロボティクスは、自動車関連メーカーなどからの依頼で乗り物を設計したり、作業の効率化・安全性向上を目的とした機械を試作・量産したりする仕事を請け負っています。以前取材した乗れるパトレイバー」も、実は彼が開発協力したもの。その仕事で培ったノウハウはもちろん、獲得したお金の一部が「ポケットマネー」として勇者技術研究所に還元されています。


実は石田さんは以前、モータースポーツ用のレーシングカーやスポーツ走行をする車の開発に携わる企業に勤めていました。多忙な日々を過ごす中「超高額で理論上は時速300キロも出るけれど、クローズドサーキット以外の場所では性能を合法的に発揮できない、ロマンの塊のような車が存在できるのなら、そんなにスピードが出なくても人型ロボットに変形する車が存在してもいいのでは?」と考えたのです。

ただ企業勤めを辞めて独立後、企業と組んで人型変形ロボット製作に取り組んだものの、やはりビジネスとして行うプロジェクトの難しさに直面。そこで、この人型変形ロボット製作は“趣味”として、本業と両立させる道を選びました

「ファイバリオンが市場に受け入れられるかどうかは、正直わからない。予定通りに動くものが作れるかどうかもまだわかっていない。だからそれを『絶対にできます!絶対に売れます!』と大風呂敷を広げて何億円も資金調達してやるのは、今のタイミングではやりたくないなと思って。自分のライフワークを仕事にしちゃって、ダメだったときにライフ自体が続けられなくなるような、いちかばちかのリスクは負いたくなかったんですよ

彼は資金を調達してロボット開発に取り組むスタートアップ企業を、否定しているわけではありません。「自分や自分たちのつくるロボットには、その進め方が向いていない」とわかっています。だから、現実的で堅実なやり方――趣味として勇者ロボをコツコツ開発することを選んだのです。

これによりファイバリオンプロジェクトは、ビジネスに付き物のさまざまな制限から解放されました。まず「いつまでに完成させなければならない」という明確な納期がない。「メンバーの健康寿命が納期です(笑)」とは石田さんの弁。それにロボットの仕様変更が許容されるのも特徴で、仮に手戻りが発生しても、それは技術的なチャレンジの一環として肯定的に捉えられます。

そして、予算。「ポケットマネーがつづく限り」は無制限なのです…!ちなみに、2022年には総務省が実施していた「異能vationプログラム」に採択され、300万円の資金を援助されたのだとか。

ロボットづくりのために華々しく起業することだけが、勇気ある挑戦ではありません。たとえ趣味だとしても、歩みが少しずつでも、夢に向かって進みつづけるのを止めないこともまた、勇ましき挑戦といえるのではないでしょうか

好きなら戻ってきて、どんなカタチでも継続すればいい

子どもの親でもある石田さん。「うちの子は、ロボット教室には通わせてないですね(笑)本人たちが興味を持ってくれれば通わせたいのですが…」という彼に、「好きなこと(例えばロボットづくり)を仕事にするのに、必要なことは?」と訊ねると、しばらくうーんと悩みながらも、みずからのことを話し始めました。

「自分が『ロボットづくりをやりたい』と思って、その道に進もうかなと心に決めたのは、14歳から17歳までのあいだだったと思います。正確に言うと、僕の実家がお寺で、それを継ぐのか、もしくは出るのかの二択があるな…と思ったのが14歳ぐらい。それでも17歳ぐらいまでは、ちょっと様子を見ようと思って。移り気な10代の3年間ぐらいのあいだ、自分の中でその思いが変わらなかったら、きっとその思いはおそらく一生貫き通せるだろう、と。まあ、結果的に変わらなかったから、今こうやってロボットに携わっているんですが(笑)」

「あと、当時はあまりよくわかっていなかったんですけれど、予測としては間違ってなかったこととして、ロボット的な技術というものは総合技術なんですよね。いろいろな分野の技術を総合してつくるものなので、雑な言い方をすると、ロボットの技術さえ身に付ければ、どこかで食っていけるというのはある

石田さんが伝えたいことは、ロボットづくりは一生の糧になるということ。そして「好きならまた戻ってくればいい」ということです。
彼自身、仕事や子育てのこともあり、人生においてロボットづくりに注力できないときもあったそう。

それでも、彼は夢であるロボットづくりの世界に戻ってきました。だから仮に、受験などのタイミングで我が子がロボット教室をいったん辞めたとしても、子どもが本当にロボットを好きなら、またこの世界に戻ってきて、趣味でも仕事でもいいのでチャレンジしたらいい――と石田さん。

「受験は大事だし、両立できないならそちらを優先させるだろうと自分でも思います。だとしても、子どもには『ロボット教室なんて役に立たないから、もう終わりだよ』といった言い方はしないでほしいですね」

そして大切なのは、いっしょに夢を追える仲間の存在です。

「さいわい、勇者技術研究所では良い仲間に恵まれていると思います。それに『ファイバリオンをつくっているよ』とインターネットでロボット界隈に向けて発信することによって、集まってくれる人もいるんですよ。いろいろな人に意外と遠いところまで届いて見られているというのが、最近わかってきました。いやぁ、インターネットってすごいなと(笑)。事業ではなく趣味だから、自由に情報を発信できるのもよかった」

夢に向かって挑戦しつづければ、苦しいときでも手を差し伸べてくれる仲間がいる。信じ合える仲間とロボットは、いつでもあなたを待っている――。勇者シリーズのお話の中だけだと思われるかもしれませんが、石田さんはそれを現実世界で体感しているのです。

さて、ファイバリオンの当面の課題。それは、自立歩行・走行ができないこと。そして動くための足や駆動系をつくるため、ふつうの車が買えるレベルのまとまった資金が必要になるのだとか。
「使う部品がそこらの中古車から流用できる部品じゃなくて、全部イチから製造しなければいけない。…うん、車をつくっているはずなんですけれどね」と石田さんは困った顔をしながら、どこか楽しそうに笑います。

「今まではポケットマネーで活動してきたけれど、今後は志を共にしてくれる企業や個人からの資金援助を受け入れる可能性があります」だそうです。スポンサー、お待ちしております。

一般論として、大きな人型ロボットを歩かせるだけでも、まだまだ大変。なのに、それを変形までさせてしまうのだから、開発難度が非常に高いことは明白です。このプロジェクトがいつ、どのようなカタチで実現するのかは不明。でも、「いつ成功するかわからないプロジェクトなんて…」「実現してもお金にならないかもしれないのに…」と外野が揶揄するのは、野暮というものです。


「成功率なんてのは単なる目安だ、あとは勇気で補えばいい!」


奇しくも『勇者王ガオガイガー』の劇中で登場人物が放ったセリフは、石田さんのロボットづくりの姿勢を表現しているかのように思えてきます。その生命(健康寿命)が燃え尽きるまで、そして勇気があれば、いかなる奇跡も呼び込めるはず――。

「やろうと思えば、何でもできる…かもしれない。まあ、何もできないかもしれないです。でもね、やらなければ何も始まらないことは間違いないんですよ」と石田さんがポロっと口にした一言は、まさに現実世界における“勇者”のセリフでした。

さあ、その日を楽しみにしようではありませんか。
石田さんたちのような、挑戦しつづける勇ましい大人が集いし勇者技術研究所製の車が、「チェンジッ!ファイバリオン!」というかけ声のもと、勇者ロボ・ファイバリオンがさっそうと変形するのを目の当たりにする日を――!

取材・執筆:スギウラトモキ

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