「情報教育」は生きる力を育む!鹿野利春氏に聞く、保護者が知っておくべきこれからの情報教育とは
2025/10/14
鹿野氏は、日本の情報教育の第一人者として知られています。石川県内の公立高校教諭、石川県教育委員会事務局を経て、文部科学省初等中等教育局高等学校情報科教科調査官を務め、「情報I」「情報II」などの学習指導要領の取りまとめや、GIGAスクール構想、情報活用能力の育成などに携わられてきました。
2021年に文部科学省を退職後は、教育改革の必要性を痛感し、問題集を出版するなど、情報教育の普及と発展に尽力。現在は、一般社団法人デジタル人材共創連盟(デジ連)の理事長を務め、さらなる情報教育の浸透を目指して様々な活動を展開されています。
今回は情報教育の第一人者である鹿野氏への取材を通して、「情報教育ってそもそも何?」や「これから必要になってくる情報教育って?」といった疑問にお答えいただきました。
<鹿野利春氏 プロフィール>
(一社)デジタル人材共創連盟 代表理事、京都精華大学メディア表現学部教授、大阪芸術大学アートサイエンス学科客員教授、大阪教育大学客員教授、東京学芸大学講師、文部科学省情報活用能力調査委員、文部科学省教育DX戦略アドバイザー、SecHack365実行委員長 (独)情報通信研究機構主催(総務省)等

そもそも情報教育ってどんな教育?
近年の学校教育で取り入れられるようになった「情報教育」ですが、そもそもどのような教育を指すのでしょうか。
「基本はお子さまにデジタル系の技術や技能を身につけていただき、きちんと働けるように、そして楽しく生きられるようにということが目的です。そのためには、まず学校教育が変わる必要がありました。
文部科学省で『情報Ⅰ』や『情報Ⅱ』、そして『学習指導要領』の改訂に携わったり、またGIGAスクール構想で一人一台端末を入れるというところにも関わったりと取り組んできましたが、根底には、これからの社会に必要な生き抜く力を身につけてもらうための教育であると言えます」
文部科学省の「教育の情報化に関する手引」によると、”情報教育とは、子どもたちの情報活用能力の育成を図るもの”とされています。つまり、情報社会を生き抜くために必要な能力を育成する教育であると鹿野氏は言います。
また具体的には、以下のような能力を育成することを目標としているそうです。
- 情報活用の実践力
課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力 - 情報の科学的な理解
情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と、情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解 - 情報社会に参画する態度
社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度
出典:文部科学省『教育の情報化に関する手引』第4章 情報教育

「文部科学省で『情報活用能力調査』というものを実施しているのですが、これは教科横断的な資質能力を測る調査になっています。近い将来、小中高で実施している『学力調査』とこの『情報活用能力調査』が、一体となって測っていくかたちを目指して進めています」
学力そのものだけでなく、教科を超えた学習基盤となる資質や能力、そして総合的な視点が求められるようになってきたということがわかりますね。
なぜ情報教育が重要?
情報教育は「これからの時代を生きていくために必要」とのことですが、具体的にはどのようなことが求められるのでしょうか。
「何を知ってるかではなくて、『何ができますか』みたいな観点が重視されるようになってきています。今までもそういうところはありましたが、よりその傾向が強くなってきたと思います。
これまでは、例えば物知りであることが良いとされていて、知識を問われる試験が多かったと思いますが、これからは知識を知っているだけではあまり役に立たない。調べ方とか、それを活用して何をするのかとか、そういったところを育てていかなければいけないわけです。改訂した学習指導要領では全教科、全科目にこの考え方が取り入れられています。
また情報の教科でいえば、これまでは『情報デザイン』というのはあまり大きく取り上げていなかったんですが、何かをするときに非常に大切な考え方で、これ抜きでは情報教育を語れない、ということで1章分をとるようになりました。
『情報デザイン』というのは、情報を分かりやすく、効果的に伝えるための設計であり、表現や伝達の工夫だけでなく「問題発見・解決する方法」と捉えています。
例えば小学校低学年の国語で物事を順序正しく説明するような経験が、論理的なデザインの入門になります。図画工作などでも当然『情報デザイン』は行われていますし、中学校では技術家庭などでも同様に鍛えられます。問題を発見・解決する手段として活用できるため、情報を扱ううえでとても重要な分野になります」
では、2022年度より高校情報科の共通必修科目として新設された『情報Ⅰ』では、どのようなことが求められるのでしょうか。
「情報Ⅰのコンセプトは何かというと、これからの日本人に必須とされる基本的な素養なんです。たとえばネットワークを考えたときに、自分の家にルーターがあって無線LANで暗号化していろいろ動かしていこうとする。そのときにある程度のことがわかっていないと安全に通信できないですよね。データの活用をしようとしたときに、自分でそれを扱えないと暮らしていけないし、だまされるし、無駄なこともしてしまう。
あるいはラーメン屋さんが思い付きで食材を仕入れたときに、売れなくて損が出てしまった、とかも当てはまります。このように行き当たりばったりだと潰れてしまいますよね。データ活用ができていれば、損が出ないように分析して利益を出すことができるはずです。
つまり、情報は道具なんです。こういったことが社会では必要になっているし、大学入試でも問われるようになってきています。
プログラミングにおいても、知識ではなくプログラミングを使ってコンピューターを理解する過程が大切です。文部科学省にいたときは、『プログラミングを知っているだけでは解けないように問題をつくってください』と指導していましたね。『実際にやったことがあったり、何かを自分でつくった経験がなければ解けないような問題を出してください』と伝えてきました。これは、データ活用についても同様のことが言えます」

情報化が急速に進む現代社会において、知識を詰め込むだけでは生き抜いていくことが難しいと鹿野氏は指摘します。必要なのは、情報を収集し、分析し、活用する力。そしてそれらの前提となる「何をしたいのか」という設計が重要とのこと。
進む情報教育、親はどう関わる?
急速に進む情報社会の中で、保護者もついていくのが精一杯という局面も。どのように子どもの教育と向き合っていけばよいのか悩むこともあるのではないでしょうか。そんなときは「子どもに教えてもらえばいい」と鹿野氏はアドバイスします。
「お子さまは、きっと喜んで教えてくれますよ。お子さまのアウトプットの練習にもなりますし、授業で教わったことをもとに興味のあることにさらに挑戦してもらったり、親子で何かを作ったりしてもいいですよね。わからないことはお子さまに教えてもらい、一緒に楽しむことで、親子のコミュニケーションを深めることにもつながると思います。
また、小学校の教育も変わってきています。黒板の前に立って滔々と講義するというスタイルよりは、グループ学習やお子さま一人ひとりの進度に応じて指導する取り組みも始まっています。教室の同じ空間で同じことをやるのではなく、それぞれの学習が展開されている光景を見るようになってきました。総合的な学習が今後もますます増えていくことになると思います」
鹿野氏が代表理事を務める一般社団法人デジタル人材共創連盟(デジ連)では、子どもたちのデジタルスキル向上を目指し、様々な取り組みを行っています。その一つが、DXハイスクール事業のサポートです。
DXハイスクール事業は文部科学省の事業で、デジタル技術を活用した課題解決などを進めるための環境整備の予算を補助金として提供しています。鹿野氏は、DXハイスクール事業を通じて、「情報教育の重要性を社会に発信し、未来を担うデジタル人材を育成したい」と語ります。
学校教育と民間教育のハイブリッドで、情報教育への期待がさらに高まっています。
STEAM教育の関連性と情報教育の未来
STEAM教育との関連性やこれからの情報教育についてはいかがでしょうか。
「教科や科目という考え方は、小中高だけです。社会に出たら教科や科目とは言われないですよね。社会に出て必要とされるのは教科や科目ではなくて、何かがつくれたり、何かができたりすることなんです。総合的な学習や探求、そして教科横断的に学べるSTEAM教育というのは社会で役立つ力を育む有効な手法ですね。
たとえばデータの収集にはネットワークが不可欠ですし、データを扱うためには数学的基礎力、AIを扱うためにはプログラミングの力、など相互に関連しています。これはデータサイエンスやコンピュータサイエンスでも同様ですし、STEAM教育がもつ総合的なアプローチが有効でしょう」
関連:STEAM教育についての記事はこちら
「これからの情報教育はますます進歩していくと思います。
具体的には情報の教科書が、2026年の5月頃から改訂版になる予定です。改訂ポイントはいろいろありますが、中身が複雑になっていたものを整理して、生徒にも先生にも使いやすいように構成されています。
また、生成AIやSNSなど、昨今のテーマに合わせた内容が盛り込まれています。たとえばSNS上で、自分と似たような価値観や考え方のユーザーばかりを見ることで、同じようなニュースや情報ばかりが流通する閉じた情報環境を『エコーチェンバー』といいますが、そういった内容も盛り込まれていますね」
なるほど、大人も知っておくべき内容がたくさん詰まっていそうです。
保護者も子どもたちに教えてもらうことで、社会全体の情報リテラシーが高まっていくことでしょう。
まとめ
- 情報教育は、単なる知識の習得ではなく、問題解決能力や創造性を育むためのもの
- 保護者は、子どもに教えるのではなく、子どもと一緒に学び、成長していく姿勢が大切
- 文部科学省のDXハイスクール事業をはじめ、情報教育の推進に貢献するための活動が進んでいる
- STEAM教育は、教科の枠を超えた横断的な学びが得られ、社会で活躍できる人材を育成する
今回は、デジ連の代表理事を務める鹿野利春氏に、保護者が知っておくべきこれからの情報教育についてお話を伺いました。
鹿野氏のお話から、これからの時代は、情報リテラシーや問題発見・解決能力、創造力といった能力がますます重要になることがわかりますね。
保護者や教育関係者は、お子さまがこれらの能力を身につけることができるよう、日々の学習や遊びの中で、積極的に関っていくことが求められています。