「STEAMな人生」とは?大阪・関西万博にも携わるSTEAM教育家・中島さち子さんが解説|こども教育総合研究所
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「STEAMな人生」とは?大阪・関西万博にも携わるSTEAM教育家・中島さち子さんが解説

2025/01/21

「STEAM教育って最近よく聞くけれど、なんだかよくわからない…」

そう嘆く昭和・平成生まれの保護者の方、少なからずいるのではないでしょうか。

「STEAM教育に取り組んでいる学校にとにかく進学させればいいの?プログラミング教室に通わせればOKなの?」と焦るのも無理はありません。なんせ、保護者世代には未知の教育ですから。
ただ、実は砂場遊びも立派なSTEAMなのだ――と聞けば、すこしは安心できそうな気がします。

今回は、STEAM教育の第一人者として知られ、音楽家や数学研究者としての肩書きを持ち、なおかつ2025年4月から開催される大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)のテーマ事業プロデューサーでもある中島さち子さんに、STEAM教育について“ぶっちゃけたお話”を伺いました。


中島さち子(なかじま・さちこ)さん

STEAM教育家、数学研究者、ジャズピアニスト

大阪府出身。高校2年生で日本人女性としては初の国際数学オリンピック金メダルを獲得。東京大学数学科卒業。NY大学ITP大学院(メディアアート)修了。内閣府STEM Girls Ambassador。株式会社steAm代表取締役。東京大学大学院数理科学研究科特任研究員。大阪・関西万博テーマ事業「いのちを高める」プロデューサーも務める。


STEAM教育で大切なのは定義ではなく考え方

そもそも「STEAM」とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)Mathematics(数学)の5つの頭文字を組み合わせたもの。
STEAM教育は、これらの理数教育と創造的教育の統合的な学びと実践を指します。

…えっ、数学と音楽を一緒に勉強させるの?と思われるかもしれません。中島さん、くわしく教えてください。

「確かに、STEAMの定義が大切だと思って、定義を日本語に訳しても、なんだかよくわからないですよね。科学や数学だと聞けば、日本の場合は『うわあ、理系の学問か…』と引いて、そこに美術まで入ると『絵も描かなきゃいけないの?』となる。答えありきの知識ベースで捉えがちなんですよ」

「でも、海外で定義にこだわっている人はあまりいない。
むしろ、STEAMにおいて何を大切にするかということを議論しています。それは好奇心――いわゆる“ワクワク”することだったり、答えが一つではない問いや失敗できる環境だったりする。いずれにしても、みんなSTEAMを楽しいものだと認識していますね」

大切なのは、知識を得ることよりも、見方や考え方を獲得することだと中島さんは語ります。

「日本の算数・数学は『1たす1は2』という答えありきで教えるのが一般的でしたけれど、それは20世紀的な教育。本来、数学の一番おもしろいところは、自由にモノが見られることなんですよ。
自由な発想はとても大切で『1たす1は、本当に2なのだろうか?』と数学者のように考えだした瞬間に、モノの見え方はだいぶ変わります。数学はけっこう哲学に近くて、物事の本質を問うものですから」

そもそもSTEAMは、マニュアル通りに行えることはもうコンピューターやAIに任せ、人間はもっと創造的に、本質的なことを考え動いていくべき――そんな時代の変化の中で生まれたもの。
だからSTEAM教育は、問いを立てて解決しようとしたり、何かを生み出したりすることに意味があります。

しかし、この文脈が理解されないまま定義や唯一の正解を求める姿勢だけが一人歩きしてしまうことを、中島さんは残念に思っています。
だからこそ、彼女は経済産業省「未来の教室」&EdTech研究会や産業構造審議会「学びの探究化・STEAM化ワーキンググループ」、文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会「デジタル学習基盤特別委員会」などによって、STEAMの根っこの意味や、STEAMが生まれてきた背景を伝える役割を担おうとしてきたのです。

STEAM教育が生み出す“創造性”の意味

STEAM教育によって、子どもに問いを立ててそれを解決する力を得られたり、創造性が身についたりするとされています。
中島さんは、この創造性の重要性を説きます。

「STEAM教育の前身であるSTEM教育に“A(芸術やリベラルアーツ)”が加わったのは、いずれにも創造性が含まれているからなんですよね。私たちの会社(株式会社steAm)でAを大文字にしているのも、STEMがすべてAの『物事の本質を見出す力』に支えられていることを示したかったからです」

 

大事なのは本質を見出す力。子どもをプログラミング教室に通わせよう!で済む話ではないようで…。

「プログラミング教室で教えられたことをできるようになった――で終わってしまうのはこれまでの教育とあまり変わりません。それよりも子どもが自分で何をしたいかを考えて、たくさん失敗させたほうがいい。例えば、プログラムをたくさん書いたのに、ロボットやゲームがぜんぜん動かないとか。
それによって体験的に学ぶことが大切だし、取り組んでいくうちに、その子なりの個性や表現もできる。そこがおもしろいんです」

得意・不得意やじょうず・ヘタにとらわれないのも、ポイントだと話す中島さん。

「数学者でも計算が嫌いな人もいるし、アーティストでも絵がまったく描けない人もいる。でも多種多様でいいんですよ。それより、自分は数学者だ、自分はアーティストだと思って物事に臨むことのほうが大切。そうすることでモノの見方は変わるし、大切なのは自分らしく生み出せているか、自分なりのものを創造しているかどうかです。

過去から学ぶことはたくさんあるけれど『マニュアル通りにうまくできるか』が芸術や研究ではない。やはり最終的にはあなたなりの視点で何かを生み出す必要があり、それがやっぱりおもしろいんです」

自分が好きで取り組んだことは、人の心を動かしやすい――。中島さんは自分の発言を立証するように、このインタビュー中、いろいろな物事に対して「これがね、めちゃくちゃおもしろいんですよ」とうれしそうに話していました(あとで確認したら無意識的でした)。
さすがはSTEAMを体現する人。常にワクワクを求め、みずからもワクワクを発信しているのです。

STEAM教育における現状の課題とは?

文部科学省も推すSTEAM教育ですが、現状においては、十分普及しているとは言えません。
その理由としては、STEAM教育を教えられる教員が足りていなかったり、ICT環境の整備が遅れていたり…。また、家庭・地域間の格差も理由に挙げられるでしょう。

ただ、中島さんによれば、ほかにも理由があるようです。

「日本の学校教育では、まだSTEAM教育といっても、例えば実験やプログラミングをマニュアル通りに教えられ、できる・できないで測られることもまだまだ多い。すると、子どもはだいたいSTEAM嫌いになって帰ってきてしまう(苦笑)。
他の国では、多様な創造性の余地があるからみんなSTEAMを楽しいと言うんですけれどね」

残念ながら、日本は現状ではまだ創造性の面で、まだまだ子どもに舵を委ね切れていないようです。

「日本の教育は世界的に見ても、良いところがめちゃくちゃあるんですよ。こんなにも統制が取れていて、みんな素直にちゃんと言うことを聞く国なんて少ないですから、海外の人はみんなびっくりする。
ただそれがネックにもなっていて、例えば、自分の意見が言えない。また、小学生の頃はまだみんな生き生きしているのに、だんだんと大人に求められている姿を演じるようになってきて、そうなると自己肯定感が低くなりがちなんですよね。それによって、自分を否定してしまう方向へ行くこともある」

中島さんによれば、アメリカの教育は問題点も多いものの、幼稚園児でも大人の会議に入ってきて意見を述べるのには驚いたのだとか。
互いの立場を超えて意見を言い合えるカルチャーがアメリカの強さだとするなら、日本はそこまで変われるのでしょうか…?

「アメリカ式がいいかどうかはともかくとして、今の時代は言われたことを言われたようにやるだけでは生きづらいし生きる歓びが育みにくいのは確か。それより『本当にそうなのか?』とか『こうしたほうがもっといい』などを本質的に打ち出せる人の存在が大切になっています

また、これまでは知識一辺倒で、正解にたどり着くことが目的だった受験のあり方も、ちょっとずつ変わってきています。一時期は大失敗だと言われたゆとり教育も、志としては間違っていなかったんですよね。ただあの時は何の具体的な事例も示さず、教育現場に任せっぱなしだったから…。
でも今は、試行錯誤できる余地がある状態になってきました。ゆとり教育で導入された『総合的な学習の時間』も“余白的なもの”として、探究に変わったり、活用されたりしていますよ

中島さんが言うとおり、学校教育も、これからますますSTEAM的に変わっていきそうです。

STEAM教育に取り組むなら、砂場から

ともあれ我が子にも、幼少期からしっかりとしたSTEAM教育を提供してあげたい。そう考えたとき、保護者は何をすればいいのでしょうか。
今回のインタビューや著書『知識ゼロからのSTEAM教育』(幻冬舎)の中でも、STEAM教育に取り組み例として、新渡戸文化学園小・中学校(東京都)や追手門学院大手前中学・高校(大阪府)といった教育機関が挙げられました。

ただ、もちろんそのような学校に通わせるのもいいけれど、普段の生活でもSTEAMは体験できる――と中島さん。
「いっしょに自然の中で遊んだり、いろいろな人に会ったりすることでもいいんですよ」と。

「例えば、砂場で『今日はお城をつくりましょう』と言って、お城をつくりませんよね?でも子どもは急にお城をつくりだしたり、川を掘ったりする――それこそ、みずから問いを立て、夢中になれるという“学び”なんです。川を掘るのに夢中でお城をつくることを忘れることもあるけれど、自分なりにゴールを決めて、その場の状況に応じていろいろと工夫する。
『こっちの砂は水はけが悪いからこの土を使ってみよう』といったように。ほんとうに、砂遊びはめちゃくちゃSTEAMですよ」

砂場遊びがSTEAMだとは意外…!このほかに中島さんが挙げた例が、親子での料理。

「いっしょになって、新しいカレーを作ろう!と挑戦してみる。それで、めっちゃマズいカレーができても記憶に残りますよね(笑)。
誰かの強制力もなく、ふと行った砂場や斬新なカレーを作る機会といったように、五感を使った遊びの場所や時間があれば、STEAMはできるんです」

ただし、と彼女はひとこと付け加えます。

「さしあたって、最初の大きなテーマは与えても良いこともあります。例えば今回のテーマは『命』で、命にまつわる何かを作ってみてね、といったように。
でも、その目的やゴール、コンセプトは遊びの途中で変わってもいい。ルールが変わっていくのもいいでしょう。かくれんぼや鬼ごっこも、遊ぶうちにルールが変わることもありますよね?ルールの変え方次第でもっとおもしろくなったり、つまらなくなったりするのは、遊びにおける余白の部分ですから」

そう笑顔で語る中島さん。

なるほど、やはり“余白”はひとつのキーポイントになりそうです。

STEAM教育実践のポイントは「自分が好きで楽しめること」

STEAM教育を実践する際のポイントとして、試しにインターネットで検索してみました。「カリキュラムをマネジメントする」「子どもが発言しやすい環境を作る」…ううん、なんだかピンとこない。すると中島さんが助け舟を出してくれました。

「私も数学や音楽が決して得意だったわけじゃないんです。ただ、数学や音楽は好きでした。試行錯誤しながらああでもない、こうでもないと楽しんでいる時間は長かったと思います。その時間が長ければ長いほど、他人の軸に依らなくなるというか…。テストでいい点を取るとか、メダルを取るとかのためにやっていたら、たぶんつまらなくなっちゃうと思う。
それと、小さい頃から五感を使う遊びをいっぱいしましたね。それが自分には学びになったと感じています」

経歴でこそ東京大学卒の中島さんですが、自分としては目標に向かって順調かつ一直線に駆け抜けてきたつもりはなく、道草を食いながら野原を歩いてきた認識なのだそう。ときには転んだり、すり傷をつくったりしたのでしょう。
「私も失敗してきたことのほうが多い、でも自分でやってきたので、大変なことに遭った場合には強い」と彼女は語ります。

だからこそ、何度失敗しても立ち上がって、好きでいることや楽しめることが大切だと中島さんは言うのです。

「私は時代の変化をポジティブに捉えていて、楽しい時代に入ってきていると思っています。20世紀頃には、何とかして生きていかなければならなくて、『好きなことは仕事にしないほうがいい』と言われていましたよね。
でも、今は逆です。好きなことを仕事にしたほうが、やっぱり強い


また、入った学校や会社の名前がモノを言った時代だからこそ、受験や就職活動に全力を注いだのだと思います。でも時代はどんどん変わっていて、肩書きよりも『どんな体験をしてきたのか』という学びの過程のほうが大切になっていく。だから、とにかくいろいろと体験してみるというのは、大切だと思います。
自分が本当にやりたいことを掘っていくと、今度は逆算して考えられるようになり、やりたいことのために必要な仕組みやルールを作る力が必要になることがわかる

「これは、いろいろやってみなければ身に付かないんですよ。反対に言えば、自分でいろいろとやらせてみたほうが、その子本人も幸せになりやすい。なぜならそのほうが誰かに求められやすくなるし、結果として自分で稼げるようになる可能性が高いからです」

中島さんは「やってみて身に付く力」の対比的なものとして「資格」を挙げました。
資格はある程度「正解」がある前提のマニュアル的な設計になっており、論理的に正しいことが理解できるようになるもの。
これからの変化が激しい時代に、その学びは果たしてかつてほどの意味を持つのか――。

「将来のために役に立つ資格をたくさん取るべし!」と言われた時代があったなぁ…と若かりし頃を思い出す保護者の方もいるかもしれません。しかし、これからの時代には、好きで楽しめる力と、失敗しても回復できるレジリエンス(しなやかな強さ)が必要なようです。

STEAM人生が生まれる場所は夢洲にある?

インタビュー中、常にワクワクを隠さずに語る中島さんの話を聞きながら、ひとつ確信したことがあります。それは、STEAM教育は子どもだけのものではない、ということ。

「STEAMは高校や大学までだと思いがちですが、むしろ大人にも大事なことなんです。自分のできること、取り組みやすいことからでもいいので、会社の中や家庭の中でいろいろと経験してみてほしい」

中島さんが例に出したのは、みずからがテーマ事業プロデューサーとして関わる大阪・関西万博です。

「万博は、行政や大企業の人たちだけが話し合って決まっていったのがこれまでの構図でした。

でも、反対に言えば、それを変えていけるのも私たちです。だから今回は『みんなでつくる』という事例が求められていると考えました。実際に携わってみると、商売に関すること以外は、意外なほどルールがない。だからお金がない中で、ゴールやルールをみんなで作っていったんです。文部科学省や行政が何かを決めるのを待っているのではなく、自分で考えて動いてみる。

もちろん思いが強すぎて『何でわかってくれないんだ』と熱くなったり、なかなかカタチにならなくて挫折したりすることもあるでしょう。
でも、そもそもやり方や答えは、山ほどあるもの
立場によっては、理解や納得できない理由もあります。そこで相手と争うのではなく、どうしたら自分が大切だと思っていることが少しでも実現するのかを考え、共創したほうがいい。音楽のように、共に奏でることのおもしろさを知ってほしいんです」

中島さんの話を聞いていると、STEAMを子どもにだけ教えようとする「STEAM教育」という言葉が、保護者たちに誤解を招いているのでは…と思えてきました。これからはすべての人に「STEAM的思考」が必要と考えたほうがいいのでは?と中島さんに尋ねると、彼女が笑顔で放ったひとことは、実にパンチが効いていました。

「もっと言うなら、大人も子どもも“STEAM人生”でいきたいですよね!」

1970年の大阪万博・アメリカ館で展示された「月の石」。
ほぼ誰も行ったことがない月面の石ころは、当時の人々を熱狂させ、子どもたちが宇宙に憧れる源となったことでしょう。ある意味で月の石は、未来へいざなう、わかりやすい答えでした。

それから55年。同じ大阪で2025年に行われる万博は、誰も答えを持っていない時代に開催されます。中島さんがプロデュースした大阪・関西万博のパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」には、月の石のような、わかりやすい唯一解となる展示物は、もしかしたらないかもしれません。
しかし、クラゲのようにゆらゆらした場所から創造性が生まれ、その創造のエネルギーが音や光や木やクラゲになり、太陽の塔のようにグワっとしたいのちの高まりが感じられるはず。そのいのちの高まりこそが、答えのない時代において、子どもたちの未来を輝かせるカギとなるかもしれないのです。

親子ともども、常にワクワクな体験を探究するSTEAMな人生を歩んでいきたい。であれば、万博にて、「いのちの遊び場 クラゲ館」で五感をフルに使い、その後の生き方を左右するかもしれない「いのちの高まり」を体験してみてはいかがでしょうか。
ぜひ大阪・夢洲で、中島さんのワクワクを体感してみてください。

取材・執筆:スギウラトモキ

2025年日本国際博覧会

2025年日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)
◆公式HP :https://www.expo2025.or.jp/
◆住所  :〒554-0000 大阪市此花区夢洲
◆開催期間:2025年4月13日(日)〜10月13日(月)

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