embot×プログラミングゼミ!特別ワークショップでロボット工作とゲームプログラミングを体験!【開発秘話も大公開】
2024/09/20
今回は、株式会社e-Craft(以下、「e-Craft」)と株式会社ディー・エヌ・エー(以下、「DeNA」)が合同開催したワークショップ「プログラミングでゲームづくりとロボット工作に挑戦しよう!」に、こども特派員が潜入!体験レポートをお届けします。
さらに今回は、開発者のお二人へのインタビューも実現。イベントに懸ける想いやここに至るまでの開発秘話など、貴重なお話しを伺いました。
<目次>
- 創造力を解き放て! ロボットで遊び、コードで学ぶ夢のような一日
- 第1部:はじめてのゲームづくりとロボット工作を体験!
- 第2部: ゲームづくりとロボット工作に分かれて、オリジナルの作品をつくろう!
- 第3部:完成した作品を見て回ろう!観覧会で学びを深める
- こども特派員と保護者の方に感想を聞きました!
- 「embot」と「プログラミングゼミ」の開発者にインタビュー
―子どものニーズを採り入れながら試行錯誤を重ねて開発しました(額田さん)
―学校の活躍の場のひとつとして、プログラミングが一般化していると感じます(末広さん) - おわりに
<PROFILE>
■額田一利(ぬかだ・かずとし)さん
NTTドコモに入社後、先進技術研究所(現クロステック開発部)で基地局におけるエネルギー最適化研究を担当。その後、イノベーション統括部(現事業開発室)で新規事業(楽器演奏者支援サービス、embotなど)の立ち上げを担当。現在は株式会社e-Craft代表取締役CEO。
■末広章介(すえひろ・のりゆき)さん
2012年にエンジニアとして中途でDeNAに入社し、2014年秋よりプログラミング教育を担当。プログラミングゼミを開発するとともに学校にて講師も務める。最近ではオンラインでもプログラミングを教える。二児の父。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
創造力を解き放て! ロボットで遊び、コードで学ぶ夢のような一日
「プログラミングでゲームづくりとロボット工作に挑戦しよう!」は、e-CraftとDeNAが2024年8月3日に共同で開催した、子ども向けの特別ワークショップ。ロボットを組み立て、プログラミングで動かしたり、自分でゲームをつくったりと、クリエイティビティにあふれたワークショップです。
e-Craftは「docomoの新規事業プログラムから生まれたロボットプログラミング教材」を提供しており、ダンボールと電子工作パーツを用いてロボットを組み立てる「embot(エムボット)」が子どもたちに大人気。
DeNAは、社会貢献活動の一環である「次世代のIT支援」として、2014年からプログラミング教育を推進しており、小学校向けプログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」を無料で提供しています。
まさに、ロボット工作とゲームづくりの夢の競演。しかも「embot」開発者の額田一利氏と、「プログラミングゼミ」開発者の末広章介氏から直接レクチャーを受けられるという充実ぶり!
額田さん
「今回は第1部、第2部、第3部という構成になっていて、3時間たっぷり体験いただけるイベントです。無料イベントなのですが、色々と頑張りました(笑)今回のワークショップ用に開発したものもあるんです」
末広さん
「額田さんも私も、まずはプログラミングやロボットづくりに親しんでほしいなという想いがありました。なるべくハードルの低い、参加しやすいイベントにしたいと思っていて、今回実現できて良かったです」
今回は特別に、こども特派員が体験に参加させていただきながら、実際のワークショップの様子をご紹介していきます。
さてさて、どんなイベントになるのでしょうか?期待に胸が躍ります!
第1部 はじめてのゲームづくりとロボット工作を体験!
今回ワークショップに参加しているのは、小学校低学年が多いとのこと。まだプログラミングやロボット工作をしたことがない子も楽しく体験いただけるように、まずはウォーミングアップからスタートしていきます。
額田さん
「第1部はロボットに興味がある人もゲームプログラミングに興味がある人も、それぞれ両方ともまずは簡単な体験していただきます」
配線を間違えないように、しっかり確認しながら組み立てていきます。 ここで間違えてしまうと動かないので、慎重に進めることの大切さがわかります。
隣で見ていた保護者たちも、「あれ?この回線は…」と迷う場面もあり、シンプルなようで観察力が問われる場面でした。
第2部 ロボット工作とゲームづくりに分かれて、オリジナルの作品をつくろう!
第1部で共通の基礎的なウォーミングアップを体験してもらった後、第2部は「ロボット工作チーム」と「ゲーム制作チーム」に分かれて、それぞれ実際の考え方などを体験しながらオリジナルの作品をつくっていきます。
それでは、まずは「ロボット工作チーム」を見ていきましょう。
最初に行うのはロボットのアイデア出し。これはロボット製作でかなり肝となる部分です。 今回は「いきもの」を真ん中において、連想ゲームのように発想をつなげてアイデアを見える化していきます。
たくさん出せたら、 ここからどんな動きのロボットにしたいかを考えて、プログラミングに入っていきます。
額田さんの講義にも熱が入ります。「条件分岐をやってみよう!」と高度なスキルを楽しみながら実演。どれがプログラミングでできるか?実現可能性を探るのも大事な工程とのこと。
額田さん
「タブレットのジャイロセンサーを使ってみよう。タブレットを傾けた状態でジャイロセンサーのボタンを押すと…ほら、数字が大きくなった!この数字はタブレットの傾きを表す『角度』というものなんだよ」
額田さんは数学の教員免許を持っているとのことで、数学的要素の解説も交えていきます。
小学校低学年で自然に高度な理系知識が身につくのが、ロボット製作の面白いところです。
プログラミングで動きが決まったら、次はオリジナルのロボットに仕上げていきます。
さて、どんなロボットになるでしょうか?楽しみに待ってみましょう。
続いて、「ゲーム制作チーム」はというと、こちらもかわいらしいキャラクターが登場
「もぐらたたき」や「きせかえゲーム」、「シューティングゲーム」など自分の興味のあるゲームを一つ選んで、制作していきます。
末広さん
「ゲームは子どもたちも普段やっていると思いますが、あまり熱中していると『ゲームばっかりしてないで』とか言われてしまいますよね(笑)
でも『いや、ゲーム作ってます』と自信を持って言えるといいなと。自分で作れるんだ、という感覚を持ってもらえると良いなと思いますし、だれでもクリエイターになれるということを知ってもらう機会になれば嬉しいなと思います」
たしかに、クリエイティブな活動は保護者も応援したくなるもの。
馴染みのない大人にとっては、「プログラミングは難しそう」や「よくわからない」とハードルが高く思ってしまいますが、もっと身近なものにしていきたいと末広さんは言います。
末広さん
「親としてはどうしても、子どもに色々言いたくなる気持ちは、私もとってもよく分かります。子どもが自分でやりたいと興味を持って、実際に作って動いたという成功体験が味わえるのはすごく良いチャンスかなと思うので、見守ってあげられると良いのではないでしょうか」
夢中になっていると時間が経つのもあっという間です。休憩を挟みつつ、いよいよ完成に向けて、それぞれのチームはラストスパート。
一人ひとりの様子を見ながら、つまずいている子がいたら個別にフォローをしている様子が印象的でした。
そしてここで、会場の子どもたちからお二人への質問タイム!子どもたちからさまざまな質問が飛び交います。
「どうしてこのイベントをひらこうと思ったのですか?」や「どうしてここで働こうと思ったのですか?」という質問があがる中、「ロボットには愛がないのに、なぜ癒されるのですか?」といった質問も。哲学的な質問に、思わず二人も感嘆。
末広さん
「ロボットに限らず、愛を感じるのは人間側ですよね。ロボットを使って癒されるのは人間の良いところだと思うなぁ」
額田さん
「元々はembotも感情を届けるロボットとしてつくりました。勉強しなさい、とかお母さんが言ったらイライラするけどロボットが言うとなんだか和んだりしますよね」
末広さん
「人間ではできなくてロボットにできることって、実は感情面でもいろいろあるんじゃないかと思います」
額田さん
「ロボットに愛はないけど、作っている人側に愛がありますよね」
と議論が白熱しました。
第3部 完成した作品を見て回ろう!観覧会で学びを深める
完成した作品をいよいよお披露目!
最後は説明員とお客さんに分かれて、自分の作品を説明し合います。
額田さん
「第3部は、それぞれの作品を見て回って、お互いに吸収しあうようなイメージです。 ロボットに興味があった人に、ゲームプログラミングの面白さを知ってもらったり、その逆もありますね」
末広さん
「自分の作品を見せることも非常に大切だと思っていて、反応がもらえると嬉しいですし、成功体験につながります。保護者の方も一緒に見て楽しんでいただければと思います」
初対面でも、臆せず聞いたり話したりと、みんな意気揚々と話しています。何かを『作り切った!』という経験が成功体験として自信につながっているのかもしれません。
額田さん
「プログラミングの理解が皆さまの中でも進んできていたり理解を得やすくなったと感じます。
とはいえ、まだハードルの高いイメージがあると思うので、こうした無料のイベントで身近に感じていただけたらと思います。 なるべく親子で楽しめたり、いつの間にかロボットやプログラミングで遊んでいる、というのが理想のかたちだと思っていて。保護者の皆さんも楽しんでいただけるとお子さまの可能性が広がるんじゃないかなと思います。
ロボットやプログラミング教育をもっと一般的にしていくためには、業界全体を盛り上げる必要も感じています。
こうして組織の垣根を超えたイベントをどんどんやっていきたいですね」
こども特派員と保護者の方に感想を聞きました!
ありすさん(小3)
「スクラッチはやったことあるけど、ロボットを作ったのは初めてでした。 自由工作で貼るのが難しかったけど楽しかった!」
保護者の方より
「学校では算数が苦手なのですが、座標の不等号を聞きながら理解し、手を動かしているところが印象的でした。いつも思ったことをなかなか口に出すのも遠慮しがちですが、5分間という短いなかでアイデアをもくもくと書き出し、目標の10個を超えて19個も書きだしたことに驚きました!アイデア出しでイメージを描けていたからか、ロボットをつくる際は豪快かつスピーディーに完成させたことにも驚きです。
自分が作ったロボットを友達に聞かれて発表しているときの嬉しそうな姿は、授業参観でも見たことない自信に満ちた姿で、新しい一面を知りました」
しゅうとさん(小3)
「家でゲームを作りたいと思っていたけど、タブレットが重くなって動かなかったから動いて嬉しかった!自分の書いたキャラクターがゲームに出てきたことも良かったです。 自由研究でみんなに見せたいと思いました」
保護者の方より
「休みの日は時間があればゲームをしています。最近ゲームを作りたいからパソコンを買ってと言い始めたので、本当か!?と思ったらどうやら本気だったようです(笑)
絵を描くのが好きと聞いてはいましたが、基本は完成した絵をみることばかりだったので、「もぐら」とテーマを言われてさらさらと描いたことに驚きました。
また、大人でも難しそうなプログラムをさくさくとやっていたことにも驚きましたし、自分の作った作品を発表しているときの堂々とした姿に、発表に慣れているんだなと思いました。
今回お友達と参加させていただきましたが、譲ってあげたり、教えてあげたり、自分を主張しすぎずフォローをしている姿に、成長したなと思いました」
もっと知りたい!「embot」と「プログラミングゼミ」の開発者にインタビュー
子どものニーズを採り入れながら試行錯誤を重ねて開発しました(額田さん)
こんなに充実した素晴らしいイベントを開催されたお二人に、それぞれの製品を開発されたきっかけや経緯についてお伺いしました。
額田さん
「私は元々、株式会社NTTドコモ(以下「ドコモ」)で通信技術に関する研究をしていたのですが、基礎研究の領域でけっこう先のことをやっていて。『もっと人の役に立つことを実感したい』『ものづくりの分野をやってみたい』という想いをもつようになって、社内のメンバーと3人で休日にロボット制作を進めていきました。
休日に展示会に出して商品化のお話しをいただいたりして、本格的に事業化が動き出していくなかで当時のドコモの社内ベンチャー制度(現:docomo STARTUP)に選ばれて、起業をすることにしました。
最初はPCのアプリを作っていましたが、ロボットにしてみたらどうだろう?と試行錯誤を重ねていきました」
「実は、embotというのは『emotion robot』の略で、『感情お届けロボット』というコンセプトから生まれました。最初は、embotを見たら、遠く離れた家族や大切な人の感情が見えるようになるといったものを考えていたんです。きっかけは、スマホが一般的に普及しても、壁掛け時計やカレンダーってなくならないなと思っていて、そういう単純だけどクリティカルな情報はなるべくハードウェアで見たいのではないかなと。
そこで、感情お届けロボットを作って展示会に出してみたところ、子どもたちに『自分たちも作りたい!』という声をたくさんいただいたんです。その時はプロトタイプとして、段ボールで作っていたんですけど、『工作やお絵描きもできるから、段ボールのママがいい!』と。それで今のかたちに行き着きました」
「もっと言うと、最初は高校生向けに、Pythonでプログラミングをするタイプも作っていたり、未就学児向けの絵合わせプログラミングを開発していたりしていました。
ですが、2020年に小学校でのプログラミング教育必修化の話が出てきましたので、急遽、小学生向けの開発に着手しました。この時の経験があったので、最近になって中高生や社会人研修で引き合いをいただいても対応できています。ロボットの分野も、ついに生涯教育になってきたなと感じますね」
いろいろな試行錯誤を経て、今のかたちに行き着いたという額田さん。ユーザーの声を素早く取り入れる姿勢が今日につながっているのだと感じさせられます。
額田さん
「何が子どもに喜ばれるんだろう?ということが分からなかったので、作っては試して、作っては試して、何度も試行錯誤しました。『おしゃべりしてほしい』という要望があったので、そういうことも組み込みましたね。
今回のようなイベントなどは、ユーザーと直接接する機会が持てるので、ニーズを拾いやすいですし自分としても積極的に開催しています」
プログラミング教育が普及していくなかで、保護者としてはどうしたらいいのかについてもお伺いしました。
「やはり大人がいかにバイアスをかけずにプログラミングを応援できるか、大人も理解できるかが大切だなと思いますし、シンプルにプログラミングに興味をもってもらえると良いなと思います。
これは日本のプログラミング教育をもっと先進的にするうえでとても大切だと感じています」
学校の活躍の場のひとつとして、プログラミングが一般化していると感じます(末広さん)
では、「プログラミングゼミ」を開発した末広さんにもお話を伺っていきましょう。
末広さん
「私は2012年にエンジニアとして中途で株式会社ディー・エヌ・エー(以下「DeNA」)に入社し、2014年の秋ごろよりプログラミング教育を担当するなかで、「プログラミングゼミ」を開発してきました。
最初のきっかけは、2014年くらいに佐賀県の武雄市というところで、当時としては珍しく子どもに一人一台タブレットを配るという話があって、DeNAに『小学校高学年だったらタブレットを使った授業もなんとかできそうだけど、低学年向けのプログラミングコンテンツはないですか?』とご相談をいただいたことです。 そこから、じゃあ子ども向けのプログラミング教育をやってみようという話になり、開発担当として携わることになりました。
その後も横浜市や渋谷区など、縁のある自治体と一緒にプログラミングの公教育を推進することになって、それが徐々に広がっていったようなかたちです。
始めは、プログラミングそのものを授業として教えられるとよいかなと思ったのですが、国が学習指導要領を定めていくなかで『プログラミングの教科は作らない』という話になって。プログラミングの教科がないうえで、プログラミングをどう教えていくかというのは中々難しいものがありました。先生たちは、元々いろいろな教科があるなかでプログラミングを採り入れていかなければいけないので、どう折り合いを付けていくか。授業としても成立するし、プログラミングを教えることにも役に立つし、という道筋を見つけるのが最初のころは大変でしたね」
プログラミングを公教育の立場から推進してきた末広さん。最初は大変な苦労がありましたが、10年経ちだんだん変わってきたと言います。
末広さん
「何年もやっているうちに、だんだん分かってきて、現場で『こういう風にやりたいんだけど』と言われたときに、過去にこういう風にやった事例があるとか、子どもはこういうのが好きだとか、提案できるようになってきたなと思います。
先生たちは忙しくて手が回らないので、外部の方に依頼するというのはよくあるのですが、私としてはできれば先生たちが自分で使えるようになってほしいなという想いがあって、分かりやすい教材や授業の設計書をWebで公開して、自由に使えるようにすることで、使いやすくなってきたかなと思います」
「学校の先生は、指導案といって授業の設計書をつくる必要があるのですが、そこを先生と一緒につくることでハードルを下げられるようにしましたね。学校の現場は、指導要領に準拠する必要があるので、先生と一緒にチェックするようにしてきました」
様々な取り組みを進めるなかで、子どもたちや現場にはどのような変化があったのでしょうか。
末広さん
「学校の活躍の場のひとつとして、プログラミングという新しい領域が出ているなと感じます。プログラミングが得意な子が脚光を浴びるチャンスが出てきたと思いますね。
また、昔は『プログラミングというものをどう教えるか』を考える必要があったのですが、今は自分たちのやりたいことを実現するために『プログラミングをどう使うか』という流れになってきていて、それが学校の総合的な学習という科目でも採り入れられるようになってきました。
たとえば渋谷区は、文部科学省の「授業時数特例校制度」を利用して、午後の授業時間を中心に「シブヤ未来科」という課題解決型学習をはじめています。
私としても、課題解決型学習は、プログラミング教育との親和性があると思いますし、そういう事例を増やしていきたいなと思います。学校の在り方そのものを、プログラミングの力で変えていきたいと思いますね」
おわりに
今回、e-CraftとDeNAの合同ワークショップに参加するなかで、ロボット・プログラミング教育がより一層盛り上がっていく未来を感じることができました。
お二人のような先駆者たちが、楽しく分かりやすい教材やサービスを開発しているからこそ、教育の新しいかたちとして、子どもたちや大人にも受け入れられてきたのだと思います。
あっという間に定員が埋まってしまったという今回のワークショップも、その表れのひとつ。習い事や夏休みの自由研究として、電子工作やプログラミングを選ぶお子さまが増えているとのことでした。
これからもますますロボット・プログラミング教育分野の発展に目が離せません。
貴重なお話をしてくださり、ありがとうございました!
執筆者:こども教育総合研究所 研究員