自宅学習でも心配なし?充実したシンガポール公立校のオンライン授業
2020/06/15
2004年からシンガポールにて、日本人の為の教育移住と法人設立のトータルサポートを行う葭矢久子さんに、外出自粛期間におけるシンガポール公立校のオンライン学習状況についてご紹介いただきました!
日本では全国的に緊急事態宣言が解除され、長い間休校や自宅学習を余儀なくされていた学校が、徐々に開校されているようですね。
ここシンガポールでも、約2ヶ月間のサーキットブレイカー(以下C・B)と呼ばれる穏やかなロックダウン期間が6月1日をもって段階的に解除されました。6月2日から分散登校が開始され、生徒たちの各学校への通学がはじまっています。
日本の公立学校では3ヶ月にも渡る長い休校期間中、主にプリント学習などの紙媒体や動画などの 一方通行の学習が行われていたようですが、IT先進国のシンガポールでは、このC・B期間中すべての公立校、インター校でもオンラインを利用した授業が実施されたようです。
今回は、新型コロナウイルス感染拡大の問題が深刻になってきた3月下旬からのシンガポールの公立学校の動きと教育への取り組み方について、ご紹介させていただきます。
シンガポールの公立学校オンライン授業までの流れ
2020年3月27日シンガポール政府は公立学校において、週に一度の自宅学習(HBL:home-based learning)を開始すると発表しました。
学校の閉鎖が相次いでいた各国の対応と異なり、この時点では通学による学習をメインとしていたシンガポールの公立校ですが、自宅学習開始から間もない4月7日にシンガポールはC・Bに突入。すべての学校への通学が一部例外を除いて禁止となりました。
通学による授業が中止になったのがC・B開始の翌日である4月8日。
C・B開始日から1日ズレがあるのは、家庭での学習環境を整えるための考慮かもしれません。
もちろん自宅に使えるパソコンがなかったり、インターネット環境が整っていない家庭の子供たち、あるいは両親がエッセンシャル・サービス(重要業務従事者)に従事していて家庭学習が困難な子供たちには、通学を認めたり(学校へは通学をしますが、授業はあくまでもオンライン上となります)PCを貸与したりと、しっかりとしたサポートがありました。
更に、本来6月から開始される予定のスクールホリデーと呼ばれる休暇期間を前倒しし、極力授業に支障が出ないよう考慮されていました。
いかにシンガポール政府が、子どもたちの教育に重点をおいているかがわかりますね。
しっかりとした土台があるシンガポール公立校のオンライン授業
日本の家庭では、子どもたちが利用できるパソコンが無い家庭が多いと聞きますが、シンガポールの子どもたちのパソコン保有率は、80%前後。
これは、オンライン授業を通常でも取り入れている、シンガポールの教育環境にも関係しているかもしれません。
シンガポールでは、何らかの理由で通学が困難になった場合を想定し、以前からオンライン授業の充実を図っています。
例えば、Singapore Student Learning Space(SLS)と呼ばれる、オンラインのプラットフォーム等を多くの公立学校では取り入れています。
生徒はこのプラットフォームにいつでも、どこからでもアクセスすることができます。
サーキットブレーカー中のオンライン授業についての感想を伺いました。
今回、ジュニア・カレッジ(日本の高校の学年に匹敵)に通うお子様をお持ちの日本人のお母様にご協力をいただき、3つの質問に答えていただきました。
シンガポールのオンライン授業についての感想をご紹介いたします。
Q.実際にお子さんがオンライン授業を受けた感想をお聞かせください
<A・親御さんの立場から>
小学校の時から、コロナ禍関係なく、平時でもEラーニングデーがありましたので、今回の在宅学習措置が実施されても大きな戸惑いはありませんでした。
また、すでにオンライン授業の仕組みも整っておりましたので、学校側生徒側ともIT的な問題も今の所ありません。
先生方はオンラインでも変わらず皆熱心に指導してくださり、感謝しております。
ただ、通学時間がない分、起床時間が遅くても良くなったためうちの子の場合は、通常より夜ふかしをしたり、休み時間に昼寝をしてしまったりと、生活のリズムが狂ってしまいました。
<A・お子さんの立場から>
在宅学習が始まった当初は「早起きしなくても良い」という安易な考えからオンライン学習に対して好意的な気持ちしかありませんでしたが、約一ヶ月続き、さらに、そのままスクールホリデーに突入してしまったので、最近は、友人たちや先生方と会えない寂しさを強く感じるようになってきました。
もちろん、オンラインで常に皆と繋がっていますが、実際に会って会話を交わすのとは違いますね。
Q.オンライン授業の良かった点は何でしょうか?
<A・親御さんの立場から>
・生活のリズムは通常より狂ってしまったが、朝礼や出席確認が毎朝同じ時間にあるので、その時間までには起床し、制服に着替えるという最低限のローテーションは守ることができた点。
・通学中や学校内での感染の心配がなく、学び続けられる点。
<A・お子さんの立場から>
・オンラインは授業中に周りの友人から話しかけられることがないので先生の話を聞き逃すということが無くなった。
・学校での授業の方が楽しいが、授業が無いよりは良い。
・在宅の自主学習だけでは、リアルタイムの確認・質問が難しいが、オンライン授業が時間割通りに行われることで、すぐに疑問点を各教科の先生方に確認することが出来るので助かっている。
Q.オンライン授業の課題・問題点と思われるものはありますか?
<A.親御さんの立場から>
・小さなお子さんがいる先生の場合、お子さんが邪魔をして授業が中断することがよくあるので、先生によってはオンライン授業の実施が難しい方もいらっしゃるように見受けられる。
・自分の部屋に長時間いるため、集中しづらい時があるように思う。
<A.お子さんの立場から>
・先生方はスライドを生徒にシェアする際、通常授業より時間がかかってしまうため、教えにくいと思う。
・授業や問題を解く中で、オンラインだとわからないところを伝えにくい時がある。
小学校では、宿題はオンラインで提出するものの、授業自体はリアルタイムで行うものではなく、あらかじめ用意された動画やSLSを活用した授業が行われたようです。
シンガポールの公立のオンライン授業の様子がおわかり頂けましたか?
私が個人的にさすが公立校と思ったのは、オンラインでも「制服着用」、「出欠の確認」がきちんとあることです。
インター校では「制服は通学の際に使用するもの」と捉えているのか、自宅学習ではそれぞれが思い思いの服装で参加です。
また、特に低学年は参加も自由で全く出席しない生徒さんもいるとか…。
家でもきちんと学習しているという意識をつけるためには、今回お話を伺った公立校のように、ある程度通学時と同じようなスケジュールを組むことが必要なのではないかと思いました。
あまりにも異なる日本とシンガポールの現状
日本では多くの学校が3ヶ月の間ほぼ自宅学習、それも各家庭によってかなり開きが出てしまう学習方式だったと聞いています。対してシンガポールでは、できる限り通常の授業と代わりのないカリキュラムをしっかりと子どもたちや両親に発信し続けていました。
もちろん学校が閉鎖されていた時期も日本に比べてとても短いということも要因です。
知り合いの日本のご両親の中には、「学校でオンライン授業を開いてほしい。」
「登校が開始されたといっても、実際に学校に行くのは、6月は9回のみ。
あとは自宅で予習なので、それで本当に理解できるのか不安」
などの声も聞かれました。
また、自粛期間中、オンライン授業を提供している塾に新たにお子さんを参加させた保護者の方も多いのではないでしょうか。
コロナ終息には長い時間がかかるでしょう。
また、もし感染者が再び増えだして、学校が閉鎖になったら…
日本の保護者の方はそんな不安を抱えているのかなぁと、
日本の学校へ通うお子さんをお持ちのお母さんにお話を聞いていて、
そんなことを感じてしまいました。
日本も、将来のある子どもたちへの教育費に国家予算をもっと使えればよいのにとシンガポールから考えてしまいました。
本記事の筆者:葭矢久子(よしや・ひさこ)
シンガポール教育移住の専門家。YHF PTE. LTD.代表。
https://sinbiz-support.com/lp/
2004年からシンガポールにて、日本人の為の教育移住と法人設立のトータルサポートを行っている。
日本の高まる移住需要とマスコミやネットから得られる情報とのギャップを感じ、シンガポールへの教育移住を希望する日本人へ、現地から正しい情報を発信する事に努めている。