「子どもの選択肢を広げるSTEAM教育」株式会社スイッチエデュケーション代表取締役に聞く転換期を迎えた教育との向き合い方|こども教育総合研究所
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「子どもの選択肢を広げるSTEAM教育」株式会社スイッチエデュケーション代表取締役に聞く転換期を迎えた教育との向き合い方

2020/02/17

2020年4月、プログラミング教育が必修化され、学校教育が大きく変わろうとしています。転換期を迎えた日本の教育に、我々大人はどう向き合えばいいのか? 子どもにできることは一体何なのか? ――STEAM教育の実践を目標に掲げる「株式会社スイッチエデュケーション」代表取締役であり、一児の母でもある小室真紀氏に、STEAM教育を始めたとした新しい教育との向き合い方についてお話を伺いました。


小室氏のご紹介

小室真紀(こむろ・まき)氏

株式会社スイッチエデュケーション代表取締役社長。

1984年生まれ。お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科博士課程修了。博士(理学)。大学ではヒューマン・コンピュータ・インタラクションの文脈で美容ライフログを研究。2012年より株式会社スイッチサイエンスにて、「専門家ではない普通の人に、最先端の科学技術を使ったものづくり」を普及させる活動に従事。2017年より現職。「作ること、遊ぶことを通した学び」を全ての子どもに実践することを目的とし、子ども向けのプログラミングワークショップや講演会を通してSTEAM教育普及活動を行う。


―株式会社スイッチエデュケーションの事業内容を簡単に教えてください。

弊社は、「STEAM教育を日本にいる全ての子どもたちに実践すること」を目的に活動しています。具体的には、イギリスで誕生した子ども向けのマイコンボード[micro:bit]を使ったワークショップの企画・運営、[micro:bit]につないで遊べるモジュールの開発・販売、他にもプログラミングに関する書籍の執筆などを行っています。

私たちが考えているSTEAM教育は、「自分で発想したものを作り、その過程で様々なことを学んでいく」こと。全ての子どもたちにこのような体験をしてもらうために、教育的な活動に取り組んでいます。

―2020年4月から、いよいよプログラミング教育が必修となります。株式会社スイッチエデュケーションとして取り組まれていることはありますか?

全国各地の学校・自治体からご依頼をいただき、教員向けの研修・セミナーを行っています。日々の業務で忙しい先生たちにとって、[micro:bit]を使い授業を組み立てるのはなかなか難しいのが現状です。弊社では、算数や理科の授業で使える授業案を複数ご用意しています。昨年から教員研修に力を入れている自治体もありますが、まだそこまで行き届いていない地域もあります。そういった地域にも、これからどんどんお手伝い・サポートしていきたいですね。[micro:bit]は応用が効くので、小学校だけでなく中学校・高校の授業でも使える作例を増やしたいと考えています。将来的には、ハサミやノリのようにモノを作る時に使う道具の一つとして、[micro:bit]そのものを広められる活動ができたらいいなと思っています。

―教育に関わるキーワードとして、近年「STEAM教育」が注目されています。STEAM教育の重要性を教えてください。

STEAM教育を経験することで学び方の選択肢が増えると考えています。

現在の学校教育は、簡単な所から難しい所へ徐々に積み上げていく体系的なカリキュラムで行われています。STEAM教育は、最初に何か大きな課題(ゴール)を設定し、それを解決するために様々な分野から必要な知識を複合的に拾い集める学び方。段階的に学ぶのではなく、課題解決に向けて様々な知識をちょっとずつ“つまみ食い”して身につけていくイメージですね。STEAM教育では、いきなり課題(ゴール)が出てくるので一足飛びに難しい部分に直面してしまいますが、「大きな問題を解決する」所にモチベーションを持てるので、学習意欲を保てる子も多いのではないかと考えています。

皆さんが心配しているように、STEAM教育で全ての知識が身につくわけではありません。しかし、積み上げ式のカリキュラムにおいても同じことが言えます。結局のところ、どちらの学び方がその子に向いているかという話なのです。私たちは、全ての子どもたちにSTEAM教育を経験してみてほしいと考えています。現状、学校現場では積み上げ式の学習法が多いので、それに向いていない子どもは置き去りにされてしまっている可能性があります。体系的に学ぶ方が合っている子もいると思いますし、押しつけるわけではありませんが、STEAM教育も一回やってみてほしいのです。ひとつの大きな問題を解決するために、今まで知らなかったことを調べて、試してみる。STEAM教育を実践することによって、その子どもの学び方の選択肢が増えると思うのです。

―自分に合った学習法を知っているのと知らないのとでは、その後の人生が大きく変わりそうですね。STEAM教育が普及すると、社会はどのように変わっていくか、予想されていることはありますか?

大きなインパクトとしては、体系的に学ぶことが合っていなかった人たちの能力が飛躍的に上がる可能性があります。今までも、裕福なご家庭なお子さんは、STEAM教育のようなことを学校以外の場所で経験する機会があったかと思います。でも、全ての子どもたちが学校でSTEAM教育を受けられる環境になったら、どの子にも学びの選択肢が増え、学習の格差が少なくなる。そうすると、能力の高い人が増えていく可能性はありますよね。

子どもたちが大人になって社会に出た時、正解のない問題にぶつかることがあると思うんです。私も初めて会社を経営しているので、これまで出くわしたことのない問題に直面することが多々あります。人間関係とか、社員の皆さんに楽しく働いてもらうためにどうすれば良いかとか…。このような正解のない問題に対して答えを導き出すには、STEAM教育で経験できる「様々な所から必要な知識を取ってきて、それを組み合わせて解決策を探る」という方法が、近道というか、やりやすいんじゃないかと思います。STEAM教育によって、問題解決への道筋が立てやすくなるかもしれないですね。

ただ、積み上げ式のカリキュラムで学んできた人たちにそれができないわけではないし、合っている人もいるので、従来の学習法を否定しているわけではありません。学び方の選択肢を増やし、自分・その時の状況に合うものを選び取り、活用できるようになることが大切です。個々の能力を活かし、活躍できる人が社会全体で増えていくのは、とても良いことだと思います。

―STEAM教育の普及にあたって、力を入れて取り組んでいる活動はありますか?

今、注力しているのはワークショップです。月に一回は、弊社で開発したモジュールを使ったワークショップを行っています。先日はクリスマス直前だったので、クリスマスツリーに飾る電飾を“ワークショップモジュール”を使って作りました。発泡スチロールや色紙を使って手作りしたクリスマスツリーに、自分たちでプログラミングしたLEDテープを巻いて完成。ワークショップはすごく楽しいですよ!

―ワークショップにはどれくらいの年齢のお子さまがいらっしゃるのですか? また、受講した子どもたちの様子はいかがでしょうか。

割と小さなお子さまが多く参加されています。ワークショップの場合、小学3年生以下のお子さまは保護者の方と一緒に参加することをお願いしています。やりたくて参加している子どもはもちろん、保護者の方になんとなく連れて来られたお子さまでも、夢中になってやってくれています。初めてプログラミングをする子も、自分で設定した通りに動くことに面白さを感じてくれているのではないでしょうか。

私たちのワークショップは、プログラミングだけでなくモノを作ることにもフォーカスしています。クラフトで工作する時間もかなりたっぷりとっています。最終的に自分の作品ができあがって、家に持ち帰って遊べるのもうれしいですよね。

―参加されている子どもたちの様子を見ている保護者の方の反応はどうですか?

とても驚いていらっしゃいます。プログラミングをやっている姿を初めて見る保護者の方が多いので、「こんなにできるんだな」ってびっくりされていますね。「うちの子にできるかしら」と心配される方もいらっしゃると思いますが、大人が心配するより、子どもたちって出来るんですよ。構えずに一度体験させてみていただきたいです。

―小室さんご自身はどのようなお子様でしたか? 小さい頃から理系分野に興味があったのでしょうか?

このインタビューのお話をいただいて、妹に「私ってどんな子どもだった?」って聞いてみたんです。彼女曰く私は「小さい頃から理系」なんだそうです。確かに、恐竜が好きだったし、博物館に行きたがる子どもでしたね。

妹から聞いたエピソードで面白い話があって。私、どうしても欲しくて親に買ってもらった顕微鏡で、いろんなものを観察していたみたいです。でも、自分でモノを集めるのがしんどいからって、妹に集めさせていたらしくて…(笑)石や葉っぱ、ラメの入った半透明の手鏡の蓋とか、「顕微鏡で見たら面白そうなものを集めてきて!」って私に言われたと、妹が話してくれました。私は全然覚えていないんですけど…(笑)

―プログラミングをやり始めたのは何歳頃ですか?

大学生になってからです。大学1年生の授業で、プログラミングを使ってチャット機能を作ったのが最初です。今考えると基本中の基本の仕組みなのですが、当時の私にはとても難しくて……。「私の人生にこれは必要ない」と思っていました(笑)

プログラミングへの意識が変わったのは、大学4年生の頃です。私の入った研究室は比較的自由で、論文さえ書けば「好きなことをしていいよ」という先生でした。好きなものを作ろうとしたその時、プログラミングをやらないと好きなものが作れないことに初めて気が付いたんです。それからプログラミングを頑張るようになりました。

―社会が大きく変わっていく中で、情報も錯綜し、これから子どもにどんな教育を受けさせるべきか悩む保護者の方もいらっしゃると思います。そんな保護者の方へ最後にアドバイスをお願いします。

今、教育は転換期を迎えています。「従来の体系的なカリキュラムで受験させた方がいい」とか「問題解決能力を身につけさせる教育に切り替えよう」だとか様々な意見がありますが、ポジティブに考えると「選択肢が増えている」ということでもあると思います。

今こそ新しい教育を体験するチャンス。悩んでじっとしているより、弊社で行っているワークショップのような「体験できる機会」を見つけて、お子さまと一緒に保護者の方も体験してみていただきたいです。気軽に新しいことに触れて、何が合うのかお子さまと一緒に探していってもらえたら良いのではないかと思います。

もちろん、「従来の積み上げ式カリキュラムで良い学校に入り、良い大学に進学して、良い会社に就職する人生」も良いと思います。でも、それ以外の選択肢も増えてきていますから。多様な学び方、多様な成長の仕方を体験する機会があった方が、保護者の方の視界も開けます。どんな学び方が合っているかはお子さんによって違います。この機会に新しい学びの形も試してみて、お子さまに合う教育を選択していっていただきたいですね。

隔週で実施されているモニターの様子

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執筆:ヒューマンアカデミーこども教育総合研究所 編集部

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