「子どもの“発見”から学びが広がる」あべまり先生に聞く理系教育
2020/02/13
子ども向けのワークショップを開催する「わくわくキッズ」の代表・阿部麻里氏(通称 あべまり先生)は、小学校教諭の経験を生かしGEMS(科学・数学 領域の参加体験型プログラム)の普及活動を続けています。
「楽しく学ぶ」をモットーに、本質的な発想力や思考力を育むことを目指すあべまり先生に、GEMSのプログラムや理系教育に必要なこと、子どもたちと接するコツについてお話を伺いました。
阿部麻里氏のご紹介
東京都公立小学校の教員として7年間勤務しながら、「GEMS(Great Explorations in Math and Science)」という 科学・数学の参加体験型プログラムの普及、ワークショップを開催する。現在は「わくわくキッズ」として、科学館やアフタースクールで年間100回以上のワークショップや講座をうけもつ。
―先生の日頃のご活動内容を教えてください。
私達「わくわくキッズ」は、科学館やアフタースクールでお子さま向けのワークショップを開催させていただいています。コンテンツとしては科学と算数が主ですが、そこに「ART」を足したり、コミュニケーションを取りながら言語表現や詩を織り交ぜたりして、いろいろなジャンルをかけ合わせています。もう一つの柱として、大人向けの教育コンサルティングや企業研修なども行っています。
―ワークショップのジャンルが「科学と算数」ということなのですが、もともと理系のご出身なのですか?
いえ、実は理系は苦手で専門外でした。もともとは文系で、昔から図工や国語が好きな子どもでしたが、自分が小学校の教壇に立つ立場になって、苦手な教科をそのままにするのは良くないと思い、算数を研究するようになりました。
そうすると、今までイメージしていた算数と違って見えてきたんです。算数って実は、計算問題や文章問題を解くだけではなく“考えること”が大事で、そこが面白いのだと気づきました。
―わくわくキッズでは科学・数学領域の参加体験型プログラム、GEMS(注1)を導入されていますが、GEMSを知ったきっかけはなんですか?
私が大学生の時、月1回子どもと遊ぶボランティアに参加した際にGEMSを知りました。
GEMSプログラムの体験会に参加したとき「これは楽しい!今まで思っていた理科や算数と違う!」と感じたのがきっかけです。
(注1)GEMS(Great Explorations in Math and Science;ジェムズ)は、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校の付属機関LHS(Lawrence Hall of Science;ローレンスホール科学教育研究所)で開発されている幼稚園から高校生年代を対象とした科学・数学領域の参加体験型プログラム
GEMSには、70くらいのプログラムがあり、ガイドブックに沿って子どもたちが参加しながらさまざまな体験をします。単発のものもあれば3回・4回と体験してもらうというものもあります。日本でも、カリキュラムに取り入れている私立小学校もありますね。
GEMSでは、実験に使う材料を集めるところから始まります。知りたい結果から、逆にどんな実験をしたらその結果に行き着くのかを考える、“実験の手順(デザイン)”そのものを子どもたちが考えます。
そういった“自由度が高い点”や“子どもたちが自立に向かうためのプロセスがある”ことがGEMSの魅力だと思います。
私自身、独立心が強い子どもで、順番通りに進めて、皆同じ結果が出て同じ結果以外はダメ!という考え方に馴染めなかったので(笑)、GEMSはそれぞれ結果が違ったとしても「どうしてそうなったのか」を皆で考えながら進めていくというところに自由度があっていいなと思っています。
―たしかに、そこまで探究できれば思考力が育っていきそうですね。
わくわくキッズでは90分のワークショップを行うのですが、保護者様のアンケートをいただくと「なかなか学校でできないことをじっくり体験させてくれてありがたかった。」というような声をいただきます。
―最近行ったプログラムにはどんなものがありますか。
つい先日は、「宝ものDEアート」というプログラムを行いました。
パスタやビーズ、ビンの蓋など4種類の「宝物」を箱に入れて、一種類ずつ形や手触り、大きさなどを観察します。
たくさん観察して、その次は特徴を黒板にまとめ、特徴で並べてつなげた「宝物列車」を作ります。たとえば「丸い」や「穴がある」など自分が気づいた特徴同士をつなげて自由に並べていきます。
そうしていくつかの列車を作り、「隣のお友達と繋がりそうだね!」という感じでコミュニケーションをとりながら繋げていくと、大きな机を一周するくらいのとても長い列車ができることもあり、とても盛り上がります。
GEMSのプログラムはそこまでですが、私はそこに「ART」を取り入れたくて、宝物を組み合わせたオブジェを作りました。
このプログラムには、「観察・比較・分類」という3つの主要なテーマがあり、実は算数の基礎になる部分です。
計算問題や文章問題にしても、難しそうに見えてもここはこの公式が使える、ここはかけ算が使える、というふうに小分けにして考えられるんです。
このプログラムの中に含まれる学びの要素は、とても大事なポイントとなるため保護者の方に「ワークショップの振り返り」としてご説明して資料をお渡ししています。
―何歳を対象にしたワークショップが多いですか?
今までは、小学校1~3年生が多かったのですが、最近は幼稚園のニーズも高まっています。
―早くから学ばせたいという親御さんが増えているのでしょうか?
それもあると思いますし、保護者の方が、「こういった学びがあるんだ、面白そう!」とコンテンツを知ってくださって認知度が高まってきた面もありますね。ご兄弟の上の子が参加して、その下の子も一緒に参加してくださる場合も多く、年長さんの参加が増えてきていると実感しています。
―ワークショップの際、お子さまとのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
私達が心がけていることは「発見のチャンスを奪わない」ということです。
子どもって分かったことや発見したことを「あ!わかった!◯番が正解!」とすぐ口にしたくなっちゃうのですが、それが他の子に聞こえてしまうと、「ああそうなんだ。それが正解でそれ以外は不正解なんだ。」と感動がなくなってしまいがちです。ワークショップを始めるときに「実験で何か分かったときは、”あ!・い!・う!・え?・おぉ~!”は言っていいけど、なにがどうなったかは言わないでねー!」と伝えています。そうすると案外素直に守ってくれます(笑)
それから、私はあまり「気をつけ、前へならえ、はい先生の話を聞いてー」という形は好きではなくて、“手拍子”をよく使います。
子どもたちがワイワイしているときに手拍子をすると、「なんだろう?」となり、案外注目してくれるんですね。そこで改めて「先生が手を叩いたらお話を聞いてね。」と伝える方法を使っています。
なるべく子どもたちが自然な形で話が聞けるように、毎回工夫しています。
―言葉だけで指示するのと全然違いますね。小学校の先生時代にも使われていた方法ですか?
低学年を担当しているときはよく使っていましたね。高学年にはまた別の方法で。子どもの発達段階に合わせてアプローチを変えて指導をしていました。
今は、ワークショップのときに子どもが教室に入ってくる瞬間から様子を見てアセスメント(注2)をしています。
緊張しているかな?この子は何が得意かな?音楽かな?など。それに応じてワークショップの内容を臨機応変に変更することもあります。
(注2)アセスメント=行動観察・面談などの方法によって情報を集め、子どもの特性を把握し、一人ひとりに合った方法を見つけていくこと。
あとは、子どもの発言を頭ごなしに否定することはせずに、できるだけ前向きに受け止めるようにしています。
―特に算数や科学は、苦手意識を持ちやすい分野だと思いますが、ご家庭での取り組み方で工夫できることがあれば教えてください。
第一には、「お子さまが見つけたものを一緒に喜び・悩み・考えてあげる」ことです。
「蟻がスイカを食べたよ!」といった些細なこと、どんなに小さな発見でも、子どもにとっては大きな感動なので、一緒に共感してあげることがお子さまのプラスになると思います。
―子どもの「発見」がとても大切なのですね。ところで昨年、フィリピン・セブ島の小学校に訪問されたとのことですが、どのような目的で訪問されたのですか?
4~5月に語学留学に行き、滞在して1ヶ月くらい経った頃に、語学学校の近くに小学校があると聞きアポイントを取って見学に行きました。
ちょうど新学期前の時期で子どもたちはいなかったのですが、1年生の先生と、スペシャルサイエンスクラスの先生と、6年生の担任の先生にお話を伺い、国が違えば教育も違うのだなと思いました。
幼稚園や小学校の基本的なシステムはほとんど同じでしたが、学校にいる時間が7:30~16:00と日本に比べて長いこと、昼休みが1時間半と長めなことを知りました。
セブは比較的安価で、マンツーマンレッスンで授業を受けることができるので語学留学を選択して良かったです。小学校低学年から母国語の他に英語を習うので、発音がきれいな人が多く、イギリス英語の人が多いようでしたよ。
―最後に、あべまり先生の今後のビジョンを教えてください。
私達のモットーは「楽しく学ぶ」です。じゃあ、楽しく学んだその先には何がある?と、毎日を楽しく過ごせる・明日がちょっと楽しみになる子どもと大人が増えたらいいなと思っています。
私達のラーニングサイクルとしては、最後は「ご家庭に返す」ようにしています。
家でできることはあるかな?など考えていただいて、最終的には「あべまりのワークショップいらなーい!だって自分で楽しめるもん!」ということになるのが理想です。私は路頭に迷いますが(笑)。
一人ひとりが、面白いことを発見したり、研究したりできるように育ってくれたら嬉しいです。
理科好きの子どもたちを育てるSTEM教育プログラム|サイエンスゲーツ
サイエンスゲーツは、年長から小学校低学年向けの科学の習い事教室です。
子どもたちが科学を好きになることを目標としており、幼少期のうちに科学のさまざまな体験をすることで子どもたちの知的好奇心を引き出します。