~副所長訪問記~AIのフロントランナーに“未来”を学ぶ大妻中学高等学校のICT教育|こども教育総合研究所
ヒューマンアカデミー こども教育総合研究所

~副所長訪問記~AIのフロントランナーに“未来”を学ぶ大妻中学高等学校のICT教育

2019/12/16

今回は、大妻中学高等学校で実施されたヒューマンアカデミーと専門家との共同企画で実現した特別授業をレポートしてきました。

大妻中学高等学校(成島由美校長)では、早期に生徒一人一台のタブレットなどのICT技術を授業等に活用するなど、ICT教育に積極的に取り組んでおり、AIとの共創・協働はこれからの世の中に必須で、この時期に生徒自らが歩んでいく未来の時代を感じてほしいという成島由美校長の考えのもと特別授業を数回に分けて実現することになりました。

講師には、1997年に早稲田大学在学中に機械学習を利用して世界初の音楽検索エンジンを開発以降、一貫してAIIT領域の研究と事業開発を進めている園田智也氏を招待し、『AIと機械学習』をテーマに高校3年生のクラスに向けた授業が行われました。


園田智也氏プロフィール

ウタゴエ株式会社 代表取締役社長 兼 アステリアArtificial Recognition Technology合同会社(略称:アステリアART)代表者。1997年、世界初の音楽検索エンジンを発明。19982003年、機械学習と、ニューラルネットワークの技術を用いて、ジェスチャ認識システムや、マルチモーダルインターフェースシステムを開発。20012003年、日本学術振興会特別研究員。2002年、IPA (独立行政法人 情報処理推進機構) 未踏ソフトウェア創造事業に採択。2001年、ウタゴエ株式会社を設立。20194月よりアステリアART代表者に就任。博士・情報科学(早稲田大学)。


生徒はパソコンでメモをとりながら行う、まさに現代の読み・書き・そろばんを体現した授業

この日見学にいった授業では、航空写真をみながら地図を生成する技術の話。上空から見えない道はどのように地図がつくられているのかクイズ形式で進行していきます。園田先生の講義は高校生に伝わりやすく噛み砕いて話をしていますが、実は今まさに世界が注目しているAI技術の話をそれとなくしていますので、生徒も驚嘆しながらどんどん姿勢が前のめりになっていく様子が後ろから見学していてよくわかります。次にGAN(注1)を使って、人の顔を自動生成したクイズや猫の生成やSTYLEGAN(モデル生成)の技術と事業の解説が行われ、生徒からも活発に質問も出て、次々と紹介される最先端の技術の話でも生徒が普段使っているSNSの話に例えて説明されるので、すっと理解することができ飽くことないあっという間の時間でした。

(注1)敵対的生成ネットワーク (てきたいてきせいせいネットワーク、 Generative adversarial networks略)

授業終了後にはAI分野について園田氏に進路相談を行う数人の生徒もあり、非常に満足度の高さが伺えました

授業終了後、成島由美校長を交え、早稲田大学で情報科学を教えながら2つのAI開発会社の代表として活躍する園田氏にこれからのAIの人材育成についてお話を伺いました。

写真左:園田先生 右:成島校長

<成島由美校長>
学祖 大妻コタカが説いていたことに「女性の自立」があり、「良き家庭人、良き職業人」となることを伝えていました。100年前に良き職業人となる道として裁縫・手芸を指導していたのです。手に職というのは絶対に道具が必要で、昔のお裁縫箱にあたるのが現代のタブレット・PC・スマホかもしれません。生徒には、テクノロジーを活用して、時代を切り開いていける人に育ってほしいと思っています。

女性がAIの時代に活躍するためには既成概念に囚われることなくこの分野の勉強をしていくことで、会社に軸足をおかずとも家でもどこでもできる希少な職業で生きていける道があるということを生徒たちに伝えられればと思っています。生徒たちが社会に出ていく頃には今ある職業だけでなく新しく生まれてくる職業があると思っています。そのために、園田先生のような実業界のフロントランナーに直接授業をしていただくことが大事ですし、我々は、生徒たちの心に“学ぶことの大事さ”の灯をともし続けることが使命だと思っています。

<園田先生>
AIの時代を生きていくために中学・高校では何を学んだらよいですか?

私自身は父がプログラマーだったこともあり、高校のときにパソコンを買い与えられ、高校からプログラムを学んだので、AIを学ぶという点では恵まれた環境にありました。

センサーや機械学習はこれから10年先も続く分野です。何を学んだらよいかはいまの段階では断言は避けておきたいですが、機械学習はデータの統計処理には有用で文理問わず学習すると面白いと思います。例えば、タイタニック号の顧客名簿から生存者がだれかを予測する題材などは有名です。生徒も興味を持ちやすく情報の授業の題材に使うのも良いのではないでしょうか。年齢・性別・家族構成・身分などを手掛かりに予測を出すというものです。1年時にタイタニック号の生存者予測、2年で実際の社会に役立つ題材、例えばお弁当屋さんの毎日の売り上げや売れ残り個数を、天気や気温や湿度、給料日などの情報を手掛かりに予測するなどの題材をとりいれてもよいかもしれません。トレンド解析が必要となることもあるので、タイタニック号の生存者予測よりは複雑となります。シーズナルデータ(給料日・季節等)も考慮すると、予測精度も向上してきますので、そこまでできるようになると実践でも使えるようになります。

少し話が戻りますが、先ほど質問のあった何を学べばよいのかの回答に1つ追加するとしたら、

人類史を学んだほうがよいと思います。なぜならば人類がどう歩んできたかが次のアクションのヒントになると考えています。自動機織り(産業革命)の時代から、多くの人が下着を身につけるようになり、そこから下着を売るといったサービス業が産まれてきました。

このような歴史の流れがわかっていると、デジタル革命の今、どんな産業が産まれ、何をすべきかがわかるようになると思います。逆にプログラムだけ学ぶと狭い分野で着眼点が狭くなりがちですね。

生徒が興味をもつように一人ひとりに質問をする園田先生と見守る成島校長

(園田先生つづき)

これから「教育」はものすごく期待される、パワフルな産業分野のひとつとなると思います。

技術をキャッチアップできるような教育にシフトする機運になってきていて、今までなかった市場や価値観が生まれ、そこに教育(人材育成)が必要になると予測されています。何の市場なのかは断定できませんが、これから徐々に見えてくると思います。バイオテクノロジー、介護、医学ももちろんですが、薬で何かを操作したり、治療の結果人間のパーツをかえざるをえない状況が産まれたりすることが考えられます。今はない産業に対してどう向き合うかが大事になってくると思います。

AIの時代の人材育成について話を戻しますが、ウタゴエ㈱では、早稲田大学の学生たちが、インターンで働いています。基本的には「画像認識のブログラムを一人で作れる人」や「論文を読める人」を採用していますが、さらにウタゴエで働くことを通して大きく成長する人がほとんどです。社会に出た後も、さまざまな分野で大活躍しています。また、アステリアART合同会社では、海外の優秀な人材を集めることにも注力しています。

AIを学ぶのに良い大学はどこですか?

機械学習の分野の勉強をしたい場合、早くから講義にディープラーニングなどの機械学習を取り入れている大学、例えばスタンフォード大学などはよいと思います。大学によって研究している内容が異なりますし、大学によってカラーもあるので自分にあった進学先を選択したらよいと思います。どんな教授・学生が集まっていて「自分にとって良い人脈ができるかどうか」ということも重要だと思います。


園田先生の考える教育は、グローバリゼーションの時代からテクノロジーの時代、またそこからグローバリゼーションの時代というようにこの2つの時代が交錯してやってくると考えられており、バランスを取りながら世界は進んでいます。という言葉が印象深かったです。また、最後に園田先生から成島校長に「大妻中学高等学校から是非多くのリケジョの輩出をお願いします」と笑いを交えながらの会話もあり、短い時間ではありましたが産業革命の時代からこれから広がる未来まで貴重なお話を伺うことができました。

(こども教育総合研究所 副所長・青木)

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